ベトナム進出は今も有望か?黒字67.5%・拡大意欲ASEAN首位の実態と、失敗しない進出の形の選び方

2026.09.14|ベトナム基礎知識|文: 中元 亨

『ベトナムは有望だと聞くが、人件費は上がっているし、行政手続きも大変だと聞く。本当に今、進出すべきなのか』——経営陣から海外展開の検討を任された方なら、この問いに数字で答えられずに困っているのではないでしょうか。中国拠点のリスク分散、東南アジアの販売拠点、国内で採れないエンジニアの確保。目的は違っても、判断の材料が足りないという悩みは同じです。

結論から言うと、ベトナム進出は2026年時点でも数字で裏付けられた有望な選択肢です。JETROの2025年度調査では、在ベトナム日系企業の黒字割合が67.5%と2009年以降で最多、今後1〜2年の事業拡大意欲は56.9%とASEAN首位でした。ただし「人件費が安いから」という理由での進出はもう成り立ちません。同じ調査でリスクの上位は行政手続きの煩雑さ(67.5%)、法制度の不透明さ(58.7%)、人件費の高騰(57.3%)で、採用難を感じる企業は48.2%と2年で4倍以上に増えています。

この実態を踏まえると、判断の軸は2つに絞れます。1つは「安さ」ではなく「市場の成長と人財の質」で進出を判断すること。もう1つは「進出=法人設立」と決めつけず、製造・販売・IT開発・人財確保という目的から逆算して、現地法人・駐在員事務所・合弁・雇用代行(EOR)・オフショア開発のどれで始めるかを選ぶことです。この2つがあれば、役員会で説明できる根拠と、自社に合う進出の形が同時に手に入ります。

この記事では、①ベトナムの基本データと日系企業の実績、②JETRO調査の数値で見るメリットとリスクの実態、③5つの進出形態と目的別の選び方(法人を作らない形を含む)、④北部・南部・中部の特性と進出の手順・費用、⑤人材定着・法改正・人件費上昇への備え、の順で整理します。各テーマの詳しい記事への案内も添えます。

私は2018年からホーチミンに住み、約100社の日系企業と付き合いながら、人財の紹介と日本人PM付きのラボ型開発、雇用代行(EOR)を提供してきました。製造や販売で進出する会社と、開発拠点や人財確保が目的の会社では、選ぶべき形がまったく違うことを現場で見てきています。「ベトナム進出」を1つの手続きではなく、目的に応じた経営判断として整理したい方は、このまま読み進めてください。

目次
  1. なぜ今ベトナム進出なのか
  2. 結論: 黒字67.5%・事業拡大意欲56.9%(ASEAN首位)。ただし「安いから」の進出はもう成り立たない
  3. ベトナムの基本データ
  4. 日系企業の進出動向
  5. 日越関係と関税優遇
  6. ベトナム進出のメリットとリスクの実態
  7. メリット上位3
  8. 見落とされるメリット
  9. リスク上位3
  10. 採用難48.2%と離職率
  11. 進出形態と目的別の選び方
  12. 5つの進出形態の比較
  13. 製造・販売が目的なら
  14. IT開発・人財確保が目的なら
  15. 段階的に進める
  16. 地域の選び方と進出の手順
  17. 北部・南部・中部の特性
  18. 進出の手順4ステップ
  19. 費用と期間の目安
  20. 失敗しないポイント
  21. 人材の定着——テト後の転職と、離職率を下げる施策
  22. 法改正と行政手続き
  23. 人件費の上昇を織り込む
  24. 【FAQ】ベトナム進出に関するよくある質問
  25. ベトナム進出のメリットは何ですか?
  26. ベトナム進出のリスクは何ですか?
  27. 進出にはいくらかかりますか?
  28. 北部と南部のどちらに進出すべきですか?
  29. 法人を作らずにベトナムに進出できますか?
  30. まとめ: ベトナム進出は数字で判断し、目的から形を選ぶ

なぜ今ベトナム進出なのか——基本情報とJETRO 2025年度調査が示す日系企業の実績

ベトナムの経済成長を示す都市の建設現場とビジネス街

『ベトナムが有望なのは分かるが、根拠になる数字がほしい』——役員会で最初に求められるのはここです。この章では、ベトナムの基本データと、JETRO(日本貿易振興機構)が2025年8〜9月に実施した「2025年度 海外進出日系企業実態調査」(ベトナムは906社が回答)の結果から、日系企業の実績を整理します。

結論: 黒字67.5%・事業拡大意欲56.9%(ASEAN首位)。ただし「安いから」の進出はもう成り立たない

JETROの調査では、2025年の営業利益が「黒字」と答えた在ベトナム日系企業は67.5%(前年比+3.4ポイント)で、2009年以降で最多でした。製造業は74.1%、非製造業は61.2%です。今後1〜2年で事業を「拡大」すると答えた企業は56.9%で、2年連続でASEAN首位。拡大の理由は「現地市場ニーズの拡大」と「輸出の増加」が上位で、内需と外需の両方で収益性が見込まれています。

一方で、投資環境のリスクとして「人件費の高騰」を挙げた企業は57.3%に達しました。2026年1月には政令293/2025/NĐ-CPにより最低賃金が平均7.2%引き上げられ(ジェトロ ビジネス短信)、日系企業のベースアップ率もベトナムは5.5%(2025年→2026年・JETRO 2025年度調査)と、アジアの中では高い部類です。「人件費が安いから進出する」という20年前の理由は、2026年には成り立ちません。市場の成長と人財の質で判断するのが、いまのベトナム進出の前提です。

ベトナムの基本データ——人口1億235万人・実質GDP成長率8.0%(2025年)

項目

データ(2026年時点の公開情報)

人口

1億235万人(2025年・ジェトロ)。ASEAN第3位

GDP成長率

実質8.0%(2025年・ジェトロ)。政府の2026年目標は10%以上

1人当たりGDP

4,745USD(2025年・ジェトロ)。上位中所得国入りを目指す

主要産業

製造業(電子機器・スマートフォン組立)、IT・ソフトウェア、農林水産、観光

日本語学習者

約16万5千人で世界6位(2024年度・国際交流基金「海外日本語教育機関調査」)

日本との時差

2時間(日本が先行)

製造拠点としてだけでなく、中間層の拡大で消費市場として、IT人財の供給源として、3つの顔を持つのが2026年のベトナムです。

日系企業の進出動向——2,373社、製造から内需・ITへ

ベトナムに進出している日系企業は2,373社(外務省「海外進出日系企業拠点数調査」2022年10月時点)で、JETROの調査でも回答906社のうち製造業409社・非製造業497社と、非製造業が上回っています。拡大したい機能は製造業でも「販売機能」が57.5%と「生産機能」(汎用品56.0%)を上回り、非製造業では67.1%が販売機能の拡大を挙げました。つまり日系企業の関心は「作る拠点」から「売る市場」へ移っています。

IT分野でも、ベトナムはインドに次ぐオフショア開発先として定着し、日本企業の開発拠点や人財確保の受け皿になっています。当社が2018年から約100社と付き合ってきた実感でも、相談の中身はこの数年で「製造の移管」から「販売」「開発拠点」「日本語人財の確保」へ広がりました。

日越関係と関税優遇——CPTPP・日越EPA・EVFTA

日本とベトナムは「包括的戦略的パートナーシップ」を結び、日本はベトナムへの最大のODA(政府開発援助)供与国です。経済面では2009年発効の日越EPA、2019年発効のCPTPPにより関税優遇があり、ベトナムはEUともFTA(EVFTA)を結んでいます。ベトナムで作り、日本・環太平洋・欧州へ輸出する「輸出ハブ」としての位置づけが、関税面でも成り立つ理由です。対米輸出については、JETRO調査で日系企業の35.0%が「米国に輸出あり」と答え、関税措置の影響を受けつつも輸出維持と市場多角化で対応しています。

基礎条件と実績は数字で裏付けられました。では、メリットとリスクの中身はどうか。次の章で同じ調査の数値を使って見ていきます。

ベトナム進出のメリットとリスクの実態——JETRO調査の数値と対策

ベトナム進出のメリットとリスクを資料で議論する会議

メリットとリスクは、印象ではなく数値で見ると判断が変わります。この章では、JETRO 2025年度調査で在ベトナム日系企業が挙げた投資環境のメリットとリスクの上位を示し、公開情報に埋もれがちなメリットと、リスクごとの対策を整理します。リスクは業種と地域で大きさが違う、というのがこの章の結論です。

メリット上位3——市場規模・成長性68.4%、人件費55.2%、政治社会の安定53.2%

投資環境のメリット(複数回答)

回答割合

補足

市場規模・成長性

68.4%

前年から上昇。内需拡大と中間層の成長

人件費の安さ

55.2%

製造業作業員の月額基本給は日系企業平均302USD(約4.5万円。JETRO 2025年度調査・2025年8月時点)

安定した政治・社会情勢

53.2%

前年から上昇

3項目とも前年から回答割合が上がっており、市場としての評価が人件費を上回っている点が2026年の特徴です。人件費の水準はアジアの中でまだ低く、JETRO 2025年度調査の製造業作業員の月額基本給はベトナム302USDに対してマレーシア549USD、タイ490USDですが、詳しい水準と総人件費の計算はベトナムの人件費で解説しています。

見落とされるメリット——IT人財の供給、日本語人財、時差2時間、日系集積

調査の上位に出ない実務上のメリットが4つあります。第1にIT人財の供給で、理工系大学から毎年まとまった数のIT系卒業生が出ます。第2に日本語人財で、日本語学習者は約16万5千人と世界6位(2024年度・国際交流基金)、日本で技能実習や就労を経験して帰国した人財も増えています。第3に時差が2時間で、日本の朝会に現地が参加でき、日次で同期しやすい(詳しくはベトナムと日本の時差)。第4に日系企業2,373社(外務省・2022年10月時点)の集積で、取引先・情報・日本語対応のサービスが整っています。

ただし、日系集積は競合の多さでもあります。「日系だから」というだけで人が採れ、物が売れる時代は終わりつつある、というのが現地の実感です。

リスク上位3——行政手続き67.5%、法制度58.7%、人件費高騰57.3%

投資環境のリスク(複数回答)

回答割合

実態と対策

行政手続きの煩雑さ(許認可など)

67.5%

2019年の32.9%から倍増。2025年の大規模な行政機構再編で手続きの遅延・所管変更が相次いだ。対策は現地に精通した専門家の早期確保と、余裕のある工程表

法制度の未整備・不透明な運用

58.7%

地方ごとの法令解釈の違い、頻繁な改正。対策は現地の法律事務所・会計事務所との顧問契約とJETROの情報活用

人件費の高騰

57.3%

最低賃金は2024年7月+6.0%、2026年1月+7.2%。対策は上昇を織り込んだ3〜5年計画と、人財の質・生産性で採算を取る事業設計

ベトナム進出のメリットとリスク——JETRO 2025年度調査の数値(黒字67.5%・拡大意欲56.9%・リスク上位3・採用難48.2%)

このほか、電力供給などインフラ、知的財産(先願主義のため商標の事前登録が必要)、面子を重んじる商慣習(人前での叱責は禁物)も、実務でつまずきやすい点です。

採用難48.2%と離職率——北部製造業では76.0%

直近2年で「採用が困難になっている」と答えた企業は48.2%で、2023年度の類似調査の11.2%から急増し、ASEAN全体の36.8%を大きく上回りました。地域と業種で差が大きいのが特徴です。

業種・地域

採用が困難と回答

製造業・北部(ハノイ・ハイフォン等)

76.0%

製造業・南部(ホーチミン等)

56.7%

製造業・国内全体

66.7%

非製造業・国内全体

32.8%(各地域とも20〜30%台)

北部では中国・台湾・韓国系の大型投資が相次ぎ、人材獲得競争が激化しています。人材の流動性は日本より高く、ワーカー層では給与差での転職が頻繁です。全国平均の離職率を示した公的統計は確認できないため、本稿では数値を示しません。私が現地で見てきた限り、テト(旧正月)後の転職は毎年の風物詩で、給与差で動くのが当たり前の市場です(詳しくはベトナムの祝日)。

つまり、同じ「ベトナム進出」でも、北部の製造業と南部のIT・サービス業ではリスクの大きさがまったく違います。自社の業種と候補地の組み合わせで数字を見ることが、失敗を防ぐ最初の一歩です。

進出形態と目的別の選び方——現地法人・駐在員事務所・合弁・EOR・オフショア開発

日本とベトナムをつなぐオンライン会議で進出の形を相談する様子

「進出=法人設立」と決めてから相談に来る会社が多いのですが、進出の形は5つあり、目的によって最適解が違います。この章では5つの形を比べ、製造・販売が目的の場合とIT開発・人財確保が目的の場合に分けて選び方を示します。当社の例も含めて、法人を作らずに始める形を正面から扱います。

5つの進出形態の比較

形態

現地での売上計上

雇用主

初期投資・固定費

開始まで

向く目的

100%外資の現地法人(一人有限責任会社)

自社

初期150〜200万円+資本金、初年度500〜600万円規模。年次監査・税務・労務を自社で負う

2〜4か月

製造・販売・サービスを現地で行う。長期・多人数

合弁・M&A

合弁会社

出資額による。既存事業の買収なら短期で参入

数か月〜

外資規制のある業種、現地の販路・許認可を活用したい

駐在員事務所

不可(調査・連絡・販促のみ)

事務所

法人より軽いが賃料・駐在員費用は発生

1〜2か月

進出前の市場調査。本社に1年以上の実績が必要

雇用代行(EOR)

不可

代行会社(採用・評価・指示は自社)

給与+法定費用+手数料の月額のみ

数週間

法人なしで特定の人財を自社メンバーとして雇いたい

オフショア開発(ラボ型)

不可

委託先(専任チームを自社が指揮)

月額単価にすべて込み。初期費用なし

最短2週間

開発チームを持ちたい。人数の増減を柔軟にしたい

ベトナム進出の5つの形と目的別の選び方——製造・販売は法人、IT開発・人財確保はEOR・ラボ型から

このほか、法人を作らずに商品を売る越境ECという形もあります。現地で売上を立てるかどうか、人を直接雇うかどうか、この2軸で表を読むと自社の形が絞れます。

製造・販売が目的なら——現地法人と外資規制の確認

現地で製品を作る、あるいは商品やサービスを売って売上を計上するなら、法人以外に道はありません。日本企業の標準は本社100%出資の一人有限責任会社です。ただし、小売・流通・金融・不動産・メディア・教育・医療などは外資規制(出資比率の上限・合弁義務・追加ライセンス)の対象で、小売は2店舗目以降に経済需要テストもあります。規制業種では合弁やM&Aが現実的な選択肢になります。

2026年3月施行の改正投資法で、先に企業登録証明書(ERC)で法人を設立し、後から投資登録証明書(IRC)で案件を確定できる順序に変わりました。手続き・費用・資本金・失敗例はベトナム法人設立の流れで詳しく解説しています。

IT開発・人財確保が目的なら——法人を作らずに始める(当社の例)

『10名の開発チームを持ちたいだけなのに、法人を作って監査まで受けないといけないのか』——当社に最も多い相談です。答えは「必須ではない」です。現地で売上を立てないなら、雇用代行(EOR)かオフショア開発(ラボ型)で目的を満たせます。

当社のラボ型開発では、2,000名以上の日本語人財(N1〜N2)のデータベースから専任チームを組み、実務3年目安のエンジニアを月額1,500USD(約22.5万円)で公開しています。日本人PMまたはブリッジSEをフロントに置いた最小構成が月額約80万円から、1名から最短2週間で始められ、増員は最短1週間、合わない場合のリプレイスメント保証もあります。特定の人を自社のメンバーとして直接雇いたい場合は、当社が法律上の雇用主になる雇用代行(EOR)で、法人なしに現地雇用できます(詳しくはベトナムの雇用代行(EOR))。

2018年から約100社と付き合ってきて、「開発拠点を作りたい」と相談に来る会社の多くは、法人設立の総費用と管理負荷を聞いた時点で立ち止まります。そして、まずラボ型で1年チームを回し、規模と稼働が読めた段階で法人化した会社のほうが、最初から法人を作った会社より定着率も費用対効果も良い例を多く見ています。

段階的に進める——調査→小さく始める→規模が読めたら法人化

進め方の順は、目的を1行で書く→販売・製造なら法人(規制業種は合弁)、調査段階なら駐在員事務所、人財・開発なら EOR かラボ型→規模と期間が読めたら法人化、です。「進出」を法人設立と同一視せず、目的に応じた最小の形から始めるのが、初期投資と失敗の確率を同時に下げる進め方。

地域の選び方と進出の手順——北部・南部・中部、市場調査から運営まで

ハノイとホーチミンの地図を前に進出地域を検討する担当者

ベトナムは南北に約1,600kmと長く、北部・南部・中部で産業も採用環境も違います。この章では地域ごとの特性をJETRO調査の数値と合わせて示し、進出の手順を4ステップに整理し、形態ごとの費用と期間の目安をまとめます。

北部・南部・中部の特性——製造集積、消費・IT、コスト

地域

主な都市・省

産業の特性

採用・事業環境(JETRO 2025年度調査)

北部

ハノイ、ハイフォン、バクニン

電子・機械などの製造集積。中国からの生産移管の受け皿。政府機関・大企業の本社機能

製造業の採用難76.0%、製造業の拡大意欲39.0%。中国・台湾・韓国系との人材獲得競争が激しい

南部

ホーチミン、ビンズオン、ドンナイ

消費・サービス・金融・IT・越境ECの中心。外資・日系の集積が最大

製造業の採用難56.7%、製造業(南部)・非製造業(全地域)の拡大意欲60%超

中部

ダナン

運営コストが低め。IT・観光・軽工業が伸びる。JETRO 2025年度調査の都市別の月額基本給は製造業作業員233USD・非製造業スタッフ472USDで、ハノイ市(321USD / 822USD)・ホーチミン市(379USD / 804USD)より低い

採用難は製造業62.5%、非製造業21.1%(回答数は少ない)

製造で北部に出るなら人材獲得競争を前提にした賃金設計と定着策が必要で、販売・サービス・ITなら南部が第一候補、コストと定着を重視する開発拠点なら中部も選択肢です。当社はホーチミンに拠点を置き、IT人財の採用市場は南部が最も厚いと感じています。

進出の手順4ステップ——市場調査・形態選択・設立・運営

  1. 市場調査と目的の確定: 製造・販売・IT開発・人財確保のどれかを1行で書き、市場性・競合・外資規制・候補地を調べる。JETROは貿易投資相談を無料で受け付けており(日本国内の事務所が窓口。海外事務所は当該国在住者向けの対応)、駐在員事務所を置いて調査から始める方法もあります。
  2. 進出形態の選択: 前章の表で、売上を立てるか・人を直接雇うかの2軸から形を選ぶ。規制業種は合弁やM&Aを含めて検討する。
  3. 設立・契約と準備: 法人なら書類認証→投資登録・企業登録→資本金払込→税務・労務登録(標準2〜4か月)。EORやラボ型なら契約と人選(数週間)。オフィス、口座、労働許可証の手配を並行する。
  4. 運営体制の構築: 採用・定着策、会計税務(外資は年次監査が義務)、法改正の追随、日本本社との連携ルール(時差2時間を活かした日次同期)を整える。

費用と期間の目安

形態

開始までの期間

初期費用の目安

継続費用の目安

現地法人

2〜4か月

資本金を除き150〜200万円

初年度500〜600万円規模(会計税務・監査・賃料・人件費)

駐在員事務所

1〜2か月

法人より軽い

賃料・駐在員費用

雇用代行(EOR)

数週間

ほぼなし

給与+法定費用(会社負担21.5%+労組2%)+手数料の月額

オフショア開発(ラボ型・当社)

最短2週間

なし

最小構成 月額約80万円〜(1USD=150円換算目安)

法人の費用の内訳と資本金・ビザの関係はベトナム法人設立の流れ、人件費の水準と総人件費の計算はベトナムの人件費に詳しくまとめています。地域と形と手順が決まれば、残るのは進出後に何が起きるかです。次の章で、失敗の大半を占める「進出後」の3点を扱います。

失敗しないポイント——人材定着・法改正・人件費上昇・パートナー

ベトナム人スタッフと日本人管理者が働くオフィス

進出の失敗は、設立の手続きより「進出後の運営」で起きています。約100社と付き合ってきて、うまくいかなかった会社に共通するのは、人材の定着・法改正への追随・人件費の上昇の3つを計画に入れていなかったことです。それぞれの対策を整理します。

人材の定着——テト後の転職と、離職率を下げる施策

ベトナムでは「転職=ステップアップ」という価値観が根強く、テト(旧正月)のボーナスを受け取った後の2〜3月に転職市場が活発になります。私が現地で見てきた限り、給与に不満があれば動くのが多数派で、日本的な終身雇用観は通用しません。

効く施策ははっきりしています。明確なキャリアパスの提示、研修とスキルアップの機会、福利厚生(民間医療保険・社員旅行・食事補助)と13か月目給与・テトボーナスの慣行に沿った処遇、定期的な1on1での不満の早期把握、市場相場に見合った給与の見直しです。これらを地道に積み重ねて、定着率を大きく改善した日系企業を現地で何社も見てきました。人前で叱責しない、面子を重んじる文化への配慮も、日本人管理者がつまずきやすい点として要注意です。

法改正と行政手続き——2026年の変更点と専門家の確保

2026年は制度の変更が重なりました。改正投資法143/2025/QH15が3月1日に施行されて投資手続が見直され、条件付き投資・経営分野のリスト(第7条と附属の一覧)は7月1日から新しいものが適用されています。さらに9月11日からはベトナムでもハーグ・アポスティーユ条約が発効し、日本の公文書は領事認証に代えてアポスティーユで足りるようになりました。一方で2025年の行政機構再編に伴う手続きの遅延や所管変更が続き、JETRO調査でも行政手続きの煩雑さがリスクの1位(67.5%)でした。

対策は2つ。現地に拠点があり、設立後の会計・税務・労務・ビザまで一貫して支援できる専門家を進出検討の段階から確保すること。そして「最短○日」で開業日を決めず、登録完了日と営業開始可能日を分けた余裕のある工程表を作ることです。

人件費の上昇を織り込む——年5〜7%と為替

最低賃金は政令293/2025/NĐ-CPにより2026年1月1日から平均7.2%引き上げられ、地域Ⅰ(ホーチミン・ハノイ都市部)で531万VND(約3.2万円)になりました。JETRO 2025年度調査の日系企業のベースアップ率はベトナム5.5%で、タイ3.9%・中国3.1%を上回ります。給与には会社負担の法定費用(21.5%+労働組合経費2%。ジェトロ「外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用(ベトナム)」)、13か月目給与、テトボーナス、福利厚生が乗るため、総人件費は額面の1.3〜1.5倍で見る必要があります。

「安い人件費」に依存する事業設計は、5年で前提が崩れます。年5〜7%の上昇と為替を織り込んだ3〜5年計画にし、人財の質と生産性で採算を取る設計にしてください。総人件費の計算例はベトナムの人件費に載せています。ここまでの数字と判断軸を使えば、役員会で「なぜベトナムか」「どの形で入るか」「何に備えるか」を1枚で説明できるはずです。あなたの会社の目的は、製造・販売・IT開発・人財確保のどれでしょうか。

【FAQ】ベトナム進出に関するよくある質問

オンライン相談でベトナム進出の質問に答える担当者

ベトナム進出について、当社によく寄せられる質問をまとめました。目的に合った進出の形と概算は、現在の体制と要件をお聞かせいただければ無料相談でお答えします。

ベトナム進出のメリットは何ですか?

JETROの2025年度調査では、市場規模・成長性(68.4%)、人件費の安さ(55.2%)、政治・社会の安定(53.2%)が上位です。人口1億235万人・実質GDP成長率8.0%(2025年・ジェトロ)に加え、理工系大学からのIT系卒業生の供給、約16万5千人の日本語学習者(2024年度・国際交流基金)、時差2時間が実務上の強みです。

ベトナム進出のリスクは何ですか?

行政手続きの煩雑さ(67.5%)、法制度の不透明さ(58.7%)、人件費の高騰(57.3%)が上位で、採用難を感じる企業は48.2%です。北部の製造業では76.0%に達し、業種と地域で大きさが違います。

進出にはいくらかかりますか?

現地法人なら初期費用150〜200万円(資本金別)、初年度は維持費を含め500〜600万円規模が目安です。雇用代行(EOR)なら給与+法定費用+手数料の月額のみ、ラボ型開発なら最小構成で月額約80万円からで、初期費用はかかりません。

北部と南部のどちらに進出すべきですか?

電子・機械の製造なら北部(ハノイ・ハイフォン)が集積地ですが、製造業の採用難は76.0%です。販売・サービス・ITなら南部(ホーチミン)が第一候補で、コストと定着を重視する開発拠点なら中部(ダナン)も選択肢です。

法人を作らずにベトナムに進出できますか?

現地で売上を立てないなら可能です。特定の人財を直接雇うなら雇用代行(EOR)、開発チームを持つならラボ型のオフショア開発で、法人なしに数週間で始められます。規模と期間が読めてから法人化するのが、費用と失敗を抑える順。

まとめ: ベトナム進出は数字で判断し、目的から形を選ぶ——黒字67.5%の有望市場で、安さではなく人財と市場、法人前提ではなく段階的に

ベトナム進出は、JETROの2025年度調査で日系企業の黒字割合が67.5%(2009年以降最多)、事業拡大意欲が56.9%(ASEAN首位)と、数字で裏付けられた有望な選択肢です。人口1億235万人・実質GDP成長率8.0%(2025年・ジェトロ)に加え、理工系大学からのIT系卒業生の供給、約16万5千人の日本語学習者(2024年度・国際交流基金)、時差2時間という実務上の強みがあります。一方で、リスクの上位は行政手続きの煩雑さ(67.5%)、法制度の不透明さ(58.7%)、人件費の高騰(57.3%)で、採用難を感じる企業は48.2%、北部の製造業では76.0%に達します。「人件費が安いから」の進出はもう成り立たず、市場の成長と人財の質で判断する時代です。進出の形は現地法人・合弁・駐在員事務所・雇用代行(EOR)・オフショア開発の5つがあり、製造・販売なら法人、IT開発・人財確保なら法人を作らずに始められます。

行動に移すなら、次の順で進めてください。

  1. 自社の目的を「製造」「販売」「IT開発・人財確保」のどれかに1行で書く
  2. JETROの最新調査でメリットとリスクを数字で確認し、業種と候補地(北部・南部・中部)の組み合わせで自社のリスクの大きさを見る
  3. 製造・販売なら法人設立(2〜4か月・初年度500〜600万円規模)を、IT開発・人財確保ならEORかラボ型から段階的に進め、規模が読めたら法人化する
  4. 進出後の人材定着(テト後の転職)・法改正への追随・人件費の年5〜7%上昇を計画に織り込み、現地の専門家を早く確保する

当社は2018年からホーチミンで約100社の日系企業に人財を紹介し、日本人PM付きのラボ型開発(最小構成 月額約80万円〜、最短2週間)と雇用代行(EOR)を提供しています。法人設立が必要な会社には手順と費用を、法人なしで始められる会社にはその形を、目的に合わせてご案内します。現在の体制と要件をお聞かせください。進出の形ごとの総費用を並べた概算でお答えします。

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