『ベトナムに法人を作るには、何か月かかって、いくら必要なのか』——進出の稟議や代行会社の見積もりを前に、この3つの数字を自分の言葉で説明できずに困っている方は多いのではないでしょうか。しかも2026年3月には投資法が改正され、手元の資料が古くなっていないかも気になるところです。
結論から言うと、2026年時点のベトナム法人設立は、一人有限責任会社を選び、書類の認証→投資登録・企業登録→資本金の払込→税務・労務登録の順で進みます。費用は設立時の初期費用だけを見ても判断できず、資本金と毎年の維持費まで合算してはじめて実態が見えます。改正投資法で先に法人を作れる順序に変わり、9月からはアポスティーユで書類認証も簡素化されました。ただし、資本金とビザの関係、外資系企業に義務づけられた年次監査、設立後の税務カレンダーは変わらず重い。ここを見落とすと「法人はできたのに駐在員が働けない」「初年度の維持費が予算の2倍だった」という失敗になります。
逆に言えば、目的を「現地で売上を立てる」のか「人財や開発力を確保する」のかに分けて考えれば、法人設立は怖くありません。前者なら法人設立を上の前提で進める。後者なら法人を作る前に雇用代行やラボ型開発で始め、規模と期間が読めてから法人化する。この順で考えると、初期費用も失敗の確率も大きく下がります。
この記事では、①法人形態と外資規制、2026年の法改正で変わった点、②設立の流れ5ステップと期間・必要書類、③費用の内訳と見積もりの取り方、資本金の決め方、年間維持費、④よくある失敗5つと設立後の義務、専門家の選び方、⑤法人設立の前に検討する駐在員事務所・雇用代行・オフショア開発の3つの選択肢と当社の例、の順で整理します。
私は2018年からホーチミンに住み、約100社の日系企業に人財を紹介してきました。「開発拠点を作りたい」と相談に来る会社の多くが、法人設立の総費用と管理負荷を聞いた時点で立ち止まるのを見てきています。法人を作るべき会社と、作らなくてよい会社の違いも含めて、包み隠さず書きます。ベトナム法人設立を「手続き」ではなく「経営判断」として整理したい方は、このまま読み進めてください。
目次
- ベトナム法人設立の基礎
- 結論: 目的が「売上を立てる」なら法人、「人財を確保する」なら法人は必須ではない
- 法人形態の比較
- 2026年に変わった点
- 外資規制の確認
- 設立の流れと期間
- ステップ1: 事前準備と書類の認証・翻訳
- ステップ2〜3: 投資登録証明書(IRC)と企業登録証明書(ERC)
- ステップ4〜5: 印鑑・口座・資本金払込・税務登録・社会保険登録
- 期間の目安と遅れる原因
- 費用と資本金
- 設立費用の内訳
- 見積もりの取り方
- 資本金の決め方
- 年間維持費——会計税務・法定監査・賃料・人件費
- よくある失敗と設立後の義務
- 失敗例5つ——資本金不足・業種規制・バーチャルオフィス・合弁比率・名義貸し
- 設立後の義務
- 専門家の選び方
- 法人設立の前に検討する3つの選択肢
- 4つの形の比較
- 駐在員事務所
- 雇用代行(EOR)
- オフショア開発(ラボ型)
- 段階的に進める
- 【FAQ】ベトナム法人設立に関するよくある質問
- ベトナム法人設立にかかる期間はどのくらいですか?
- 費用はいくらかかりますか?
- 資本金はいくら必要ですか?
- 外資100%で設立できますか?
- 開発拠点を作るには法人が必要ですか?
- まとめ: ベトナム法人設立は設立費用・資本金・維持費の合算で見る
ベトナム法人設立の基礎——2026年の法改正・法人形態・外資規制

手続きの前に決めるべきことが2つあります。どの法人形態にするかと、自社の業種が外資規制に触れないかです。そして2026年は投資法の改正で設立の順序と審査の仕組みが変わりました。ここでは形態の違い、法改正の要点、外資規制の確認方法を、日本企業の標準的なケースに絞って整理します。
結論: 目的が「売上を立てる」なら法人、「人財を確保する」なら法人は必須ではない
日本企業がベトナムで現地法人を作る場合、標準は日本本社が100%出資する一人有限責任会社です。組織構造が単純で意思決定が速く、外資規制に触れない業種なら100%外資で設立できます。
ただし、法人設立は目的ではなく手段です。現地で売上を計上したいなら法人以外に道はありませんが、開発拠点やIT人財の確保が目的なら、法人を作らずに始める形(雇用代行・ラボ型開発)があります。私の経験では、この切り分けをせずに「進出=法人設立」と決めてしまう会社ほど、初年度の維持費と管理負荷で立ち止まります。形態を選ぶ前に、目的を1行で書けるかを確認してください。
法人形態の比較——一人有限責任会社が標準
外国投資家が選べる主な形態は次のとおりです(2026年時点)。
形態 | 出資者 | 営業活動 | 特徴・向くケース |
|---|---|---|---|
一人有限責任会社 | 1(法人または個人) | 可 | 日本本社100%出資の標準形。意思決定が速い |
二人以上有限責任会社 | 2〜50 | 可 | 合弁パートナーと共同出資する場合 |
株式会社 | 3以上(上限なし) | 可 | 上場・多数の投資家からの調達を見据える場合。株主総会・取締役会・監査機関が必要 |
駐在員事務所 | — | 不可(連絡・市場調査・販促のみ) | 進出前の市場調査。本社に1年以上の営業実績が必要。許可は5年 |
支店 | — | 可(業種限定) | 銀行・保険など一部業種のみ。本社に5年以上の実績が必要 |
日本企業の多くは一人有限責任会社を選び、まず市場調査から始めたい会社は駐在員事務所を置いてから法人化する2段階を取ります。株式会社は管理機関の整備が必要で、中小企業の初回進出では選ばれにくいのが実情です。
2026年に変わった点——改正投資法143/2025・条件付き業種の整理・アポスティーユ
2026年は制度の変更が重なった年です。上位の解説記事でも反映されていないものがあるので、時点を確認してください。
項目 | 2026年2月まで | 2026年3月以降 |
|---|---|---|
設立の順序 | 投資登録証明書(IRC)を先に取得し、その後に企業登録証明書(ERC) | 改正投資法143/2025/QH15(3月1日施行)により、先にERCで法人を設立し、後からIRCで投資案件を確定できる。IRC自体は引き続き必要 |
条件付き事業分野 | 229分野(2020年投資法附属書IV)→198分野 | 決議66.17/2026/NQ-CPにより、2026年7月1日から2027年2月28日までは142分野に一時整理される |
投資登録機関 | 計画投資局(DPI) | 工業団地・経済区内は管理委員会、区域外は省財政局。多くの承認権限が地方へ移管 |
外国公文書の認証 | 公証→外務省認証→ベトナム在外公館の領事認証→翻訳公証 | 9月11日からハーグ・アポスティーユ条約を適用。公証→アポスティーユ→ベトナム語翻訳公証に簡素化 |
企業登録の情報 | — | 政令168/2025/ND-CPで実質的支配者(定款資本25%以上の保有等)の情報が必要 |
順序が変わっても、外国投資家にとってIRCが法定要件であることは変わりません。ERCだけ取って投資案件を確定しないまま営業を始めることはできない、という点は要注意です。
外資規制の確認——条件付き業種・外資比率・追加ライセンス
外資が制限される業種は3つの類型に分かれます。出資比率に上限がある業種(通信・銀行など)、ベトナム企業との合弁が義務の業種(広告・映画配給)、企業登録に加えて営業ライセンスが要る業種(小売・物流・教育・医療)です。上限の比率はWTO約束表と国内法で業種ごとに定められ、改正も入るため、計画している事業分類(VSIC)ごとに個別に確認してください。小売は2店舗目以降に経済需要テスト(ENT)があります。
一方、IT・ソフトウェア開発・コンサルティングなど一般サービス業は100%外資で設立でき、法定最低資本金もありません。ジェトロの外資に関する規制によれば、法定資本金が定められているのは銀行業・保険業・海外向け労働者派遣・監査事業・証券仲介サービス事業・航空サービス・映画制作などの条件付経営投資分野で、IT・一般サービス業はここに含まれません(2026年9月21日確認)。確認の手順は、投資法の条件付き業種リスト→WTO約束表→管轄省庁の個別規定→専門家への相談、の順です。JETROのホーチミン・ハノイ事務所でも外資規制の無料相談ができます。形態と規制の確認が終わったら、次は設立の流れです。
設立の流れと期間——5ステップと必要書類、登録完了日と営業開始可能日を分けて見る

『何か月かかるのか』——所要期間の標準を示した公的な基準や業界調査は確認できないため、本稿では月数を示しません。確実なのは、行政手続きの期間と、日本側の書類準備・設立後の稼働準備の期間を分けて見積もる必要があるということです(ジェトロによれば企業登録証明書=ERCは「必要な条件を満たした書類の提出日から3営業日以内に、手続きが行われる」とされています。2026年9月21日確認)。ここでは日本本社が100%出資する一人有限責任会社を前提に、5ステップの内容・期間・書類を整理します。ERCを取ったら終わり、ではない点に注意してください。
ステップ1: 事前準備と書類の認証・翻訳
最初に決めるのは進出形態・業種・資本金・会社名・設立場所(ホーチミン・ハノイ・工業団地など)です。IRCの申請には賃貸契約書が必要なので、オフィスの仮押さえもこの段階で行います。契約から取得までの空家賃が発生する点は覚悟しておいてください。
日本側で用意する書類は、親会社の登記簿謄本・定款・直近2年分の財務諸表・銀行残高証明書・法定代表者のパスポート写し・投資の社内決議などです。これらを公証し、2026年9月11日以降はアポスティーユを取得したうえで、政府指定の翻訳機関でベトナム語に翻訳・公証します。認証と翻訳には日数がかかるため、他の準備と並行して早めに着手してください。
ステップ2〜3: 投資登録証明書(IRC)と企業登録証明書(ERC)
証明書 | 申請先 | 主な書類 | 標準処理期間 |
|---|---|---|---|
IRC(投資登録証明書) | 投資登録機関(工業団地内は管理委員会、区域外は省財政局) | 投資プロジェクト実施申請書・提案書(事業目的・投資額・資金計画・所在地・雇用計画)、財務能力の証明、賃貸契約書、親会社書類 | 約15営業日(2〜4週間) |
ERC(企業登録証明書) | 省級の企業登録機関 | 企業登録申請書、定款、社員リスト(二人以上の場合)、実質的支配者リスト、投資家の証明書類 | 3〜5営業日 |
2026年3月の改正投資法で、ERCを先に取得して法人名義で予備契約や採用準備を進め、後からIRCで投資案件を確定する順序も可能になりました。ただし従来どおりIRC→ERCの順で進める案件も多く、どちらの順序が適切かは業種・立地・投資規模で変わります。IRCの審査は書類の完成度で延び、条件付き業種では追加の許可申請が要ることもあります。ERCの取得時点で法人としては成立し、税コードは企業コードと同じ番号になります。
ステップ4〜5: 印鑑・口座・資本金払込・税務登録・社会保険登録
手続き | 内容 | 期間の目安 |
|---|---|---|
印鑑作成・登録 | 法人印の作成と届出 | — |
銀行口座開設 | 資本金振込用口座と運転資金口座 | 外資は時間がかかる |
資本金の払込 | ERC発行後90日以内に定款資本を全額払込 | 90日以内 |
税務登録 | 法人税コードの登録、電子申告・電子インボイスの設定 | — |
社会保険登録 | 現地スタッフの雇用に合わせて加入手続き | 採用時 |
追加ライセンス・労働許可証 | 条件付き業種の営業許可、外国人駐在員のワークパーミット | 業種・人数による |
ここまで終えて初めて、請求書の発行と採用ができます。資本金の払込期限を過ぎると罰則の対象になり、IRC取消のリスクもあるため、口座開設は早めに着手してください。
期間の目安と遅れる原因
業種規制や書類不備があると、当初の想定を大きく超えることがあります。遅れる原因は、定款や委任状の記載不備による追加資料の要求、条件付き業種の追加許可、所在地の要件(バーチャルオフィス不可)、外資向け口座開設の遅れ、駐在員のワークパーミットの4つに集中します。「最短○日」で開業日を決めず、登録完了日と営業開始可能日を分けて工程表を作るのが安全です。では、この流れにいくらかかるのか。次の章で費用と資本金を積み上げます。
費用と資本金——初期費用の内訳・資本金の決め方・年間維持費

費用は「設立にかかる費用」「資本金」「毎年の維持費」の3つに分けて考えないと、必ず読み違えます。代行会社の見積もりに載るのは1つ目だけです。ここでは項目別の内訳、見積もりの取り方、資本金の決め方、年間維持費の順に、どの費目が発生するのかを整理します。
設立費用の内訳——代行費+翻訳・行政・オフィス
費用項目 | 補足 |
|---|---|
設立代行費(専門家報酬) | 弁護士・会計事務所・コンサルで幅が大きい。USD建てで提示されることもある |
翻訳・公証・認証費 | 日本語書類のベトナム語翻訳、アポスティーユ等 |
IRC・ERCの行政手数料 | 政府手数料自体は少額。代行費に含む事務所もある |
オフィス初期費用(敷金等) | 規模・立地で大きく変わる。サービスオフィスという選択肢もある |
印鑑・口座開設・税務登録 | 電子申告システムの登録費を含む |
その他雑費 | 交通費・追加翻訳・弁護士意見書等 |
費目ごとの金額については、公的統計も業界団体の一次調査も確認できませんでした。民間の解説記事が掲げる相場は各社が独自に集計したもので原典がないため、本稿では費目の一覧にとどめます。代行費が安い見積もりは、翻訳・認証・設立後の税務登録が別料金になっていないかを確認してください。
見積もりの取り方——費目を揃えて比べる
設立費用の総額は、専門家報酬の範囲・オフィスの規模・駐在員の有無で大きく変わります。複数の事務所から見積もりを取るときは、金額の大小より「どの費目まで含んでいるか」を揃えて比べてください。次の観点を1つずつ確認すると、同じ土俵で比較できます。
確認する観点 | 見るポイント |
|---|---|
見積もりの範囲 | 翻訳・公証、行政手数料、印鑑・口座開設、税務登録が別料金になっていないか |
オフィス | 敷金の月数、サービスオフィスでの登録可否 |
資本金 | 払込のスケジュールと、駐在員のビザ要件を満たす額か |
設立後 | 記帳・申告・監査の費用が初年度の見積もりに入っているか |
支払通貨 | USD建てかVND建てか、為替変動の負担をどちらが持つか |

「開発拠点を作りたい」と当社に相談に来る会社の多くは、設立費用に加えて、次に述べる維持費と管理負荷を聞いた時点で一度立ち止まります。金額そのものより、売上が立たない拠点にこの固定費を払い続けられるかが判断の分かれ目です。当社のラボ型開発なら、日本人PMとエンジニアを含む最小構成で月額約80万円〜(1USD=150円換算の目安)から、法人を持たずに開発体制だけを先に作れます。
資本金の決め方——法定最低額なし、ビザから逆算、90日以内に払込
IT・コンサルティング・一般サービス業には法定の最低資本金がありません。ただし資本金ゼロではIRCが実務上取れず、当局は事業計画と資本金の整合性を見ます。民間の解説記事が掲げる「業種別の資本金目安」は各社が独自に集計した数値で原典がないため、本稿では示しません。判断の基準になるのは、事業計画上の初年度の運転資金と、次に述べる駐在員のビザ要件です。
もう1つの基準がビザです。ジェトロの外国人就業規制によれば、労働許可証(ワークパーミット)が免除されるのは「出資額が30億ドン以上の有限責任会社の所有者または出資社員」「出資額が30億ドン以上の株式会社の取締役会会長または取締役」などで、30億ドン未満の場合は労働許可証が必要な区分に分類されます(2026年9月21日確認)。「法律上の最低額がないから」と少額に設定した結果、法人はできたのに駐在員が働けない、という失敗が実際に起きています。資本金は駐在員の渡航計画から逆算し、ERC発行後90日以内に全額を払い込んでください。減資は手続きが煩雑なので、当初から適正額にするのが原則です。
年間維持費——会計税務・法定監査・賃料・人件費
維持費項目 | 備考 |
|---|---|
会計・税務顧問 | 現地会計基準(VAS)での記帳が必要で外注が一般的。月額顧問料で契約する |
決算・申告 | 法人税は四半期の予定納税と年次確定申告 |
法定監査 | 外資系企業は100%外資・合弁を問わず毎年の外部監査が義務 |
オフィス賃料 | ホーチミン市内。立地・広さによる |
現地スタッフ人件費 | 給与に会社負担の法定費用23.5%と賞与が乗る(詳細はベトナムの人件費) |
会計ソフト・法務対応 | ベトナム対応会計ソフト、法改正対応・契約書レビュー |
年間の金額目安は、公的統計も業界団体の一次調査も確認できなかったため掲載していません。確かなのは、これらの維持費が設立費用とは別に毎年発生し、さらに駐在員の人件費と生活費が加わるということです。代行費だけを見て設立を決めるのは失敗のもとです。設立費用・資本金・初年度維持費の3つを合算した数字で、稟議を書いてください。
よくある失敗と設立後の義務——ビザ・住所・合弁・名義貸し、税務カレンダー

法人設立の失敗は、手続きそのものより「目的に対して形を急いだ」ときに起きています。この章では実務でよく聞く失敗5つと、設立後に毎年回さなければならない義務、そして専門家の選び方を整理します。設立後に回せるかまで含めて計画するのが、失敗を防ぐ唯一の方法です。
失敗例5つ——資本金不足・業種規制・バーチャルオフィス・合弁比率・名義貸し
- 資本金不足で駐在員のビザが取れない: 法人はできたが、出資額が30億VND未満で投資家ビザの対象外になり、ワークパーミットの取得にも時間がかかって現地活動が止まる。対策は、駐在員の渡航計画を先に決め、必要な資本金を逆算することです。
- 業種規制・外資比率制限の見落とし: IRC申請後に条件付き業種と判明し、事業計画の見直しを迫られる。規制は条約と国内法が絡み、頻繁に改正されます。小売・通信・飲食・教育は特に事前確認が要ります。
- バーチャルオフィスの住所で登録: 登録住所には実際の事務所機能が求められ、住所貸しだけでは当局の調査対象になります。移転後の住所変更届の失念も罰則の対象です。
- 合弁の出資比率と意思決定権を決めずに設立: 条件付き業種では外資側の持分に上限が設けられることがあり、合弁契約で出資比率・取締役会構成・配当・解散時の持分処理を決めていないと、後から身動きが取れなくなります。
- 名義貸し(ダミー株主): 外資規制を避けるためにベトナム人を名目上の株主に立てる手法は、法的には名義人が株主のため、権利主張や持分売却のトラブルが起きやすい。違法リスクが高く、絶対に避けるべき近道です。
私が現地で見てきた限り、もう1つ加えるなら「法人を作れば人が採れる」という思い込みです。ベトナムではテト(旧正月)後の転職が多く、採用と定着は法人の有無とは別の問題として設計する必要があります。
設立後の義務——VAT月次・法人税四半期・年次監査・移転価格・法定代表者の常駐
時期 | 義務 |
|---|---|
毎月 | 付加価値税(VAT・標準10%)の申告(翌月20日まで。四半期申告の場合もある) |
毎四半期 | 法人税(標準20%、優遇業種・地域は10〜20%)の予定納税 |
毎年 | 年次財務報告書の提出と法人税の確定申告(課税対象期間末に確定申告)、外部監査(外資系企業は義務) |
毎年 | 移転価格文書の作成・保管(日本の親会社との取引価格が独立企業間価格であることの証明) |
随時 | 社会保険・健康保険の従業員登録、投資報告、労働許可証の更新 |
加えて、法定代表者のうち1名はベトナムに常駐する必要があり、30日以上国外に滞在する場合は代行権限の委任が要ります。利益の国外送金は、確定申告・納税・監査済み財務報告の提出が終わってから可能です。ベトナムの税務は申告時の審査が緩い代わりに事後の税務調査で遡及的に確認されるため、証憑の保管が重要です。
専門家の選び方
ベトナム語・法律・現地行政に精通していない限り、初回の設立は専門家に依頼するのが現実的です。選ぶ基準は5つ。現地に拠点とスタッフがあるか、設立後の会計・税務・労務・ビザまで一貫して支援できるか、日本語で対応できるか、業種規制の調査実績があるか、料金体系が透明で追加費用の条件が明記されているか。「任せてください」としか言わない相手より、各段階で誰が何をいつまでに行うかを表で示せる相手を選んでください。
ここまで読んで「自社の目的に法人は本当に必要か」と感じた方もいるはずです。次の章では、法人を作る前に検討すべき3つの選択肢を比べます。
法人設立の前に検討する3つの選択肢——駐在員事務所・雇用代行(EOR)・オフショア開発

『10名の開発チームを持ちたいだけなのに、法人を作って監査まで受けないといけないのか』——当社に寄せられる相談で最も多いのがこの問いです。答えは「必須ではない」です。現地で売上を立てないなら、駐在員事務所・雇用代行(EOR)・オフショア開発(ラボ型)の3つで目的を満たせることが多い。それぞれの費用の出方と向き不向きを、法人設立と並べて比べます。
4つの形の比較——売上・雇用・費用・期間
形 | 現地での売上計上 | 人財の雇用 | 初期費用・固定費 | 開始までの期間 | 向いているケース |
|---|---|---|---|---|---|
現地法人 | 可 | 自社が雇用主 | 設立費用+資本金に加え、毎年の維持費が継続して発生 | 数か月単位 | 現地で販売・製造・サービスを行う。長期・多人数 |
駐在員事務所 | 不可 | 可(事務所スタッフ) | 法人より低いが賃料・駐在員費用は発生 | 1〜2か月 | 進出前の市場調査・連絡拠点。本社に1年以上の実績が必要 |
雇用代行(EOR) | 不可 | 代行会社が雇用主。採用・評価・業務指示は自社 | 給与+法定費用+手数料の月額のみ。初期費用ほぼなし | 数週間 | 法人なしで特定の人財を自社メンバーとして直接雇いたい |
オフショア開発(ラボ型) | 不可 | 委託先が雇用主。専任チームを自社が指揮 | 月額単価にすべて込み。初期費用なし | 最短2週間 | 開発チームを月額で持ちたい。人数の増減を柔軟にしたい |

売上を立てる必要がなければ、法人設立で毎年の維持費と監査・税務の管理負荷を負う理由はありません。逆に、販売や製造で現地に売上を立てるなら法人以外に道はなく、その場合は前章までの前提で計画してください。
駐在員事務所——市場調査から始める
市場性・パートナー候補・競合を見極める段階なら駐在員事務所です。営業活動はできませんが、連絡・市場調査・販促は認められ、法人より軽く始められます。ただし本社に1年以上の営業実績が必要で、許可の有効期間は5年です。事業化の目処が立った時点で法人化する2段階が一般的な使い方です。
雇用代行(EOR)——法人なしで特定の人財を現地雇用
「この人を自社のメンバーとして雇いたい」場合は雇用代行(EOR)です。代行会社が法律上の雇用主となって雇用契約・社会保険・給与計算・税務を行い、自社は採用の決定と業務指示を行います。費用は給与に会社負担の法定費用(21.5%+労働組合費2%)と手数料を加えた月額で、法人設立の初期費用も年次監査も要りません。1〜数名の現地雇用なら、法人より総額を抑えやすい形です。詳しくはベトナムの雇用代行(EOR)で解説しています。
オフショア開発(ラボ型)——開発チームを月額で持つ(当社の例)
開発チームそのものが目的なら、ラボ型のオフショア開発が最短です。当社のラボ型開発では、2,000名以上の日本語人財(N1〜N2)のデータベースから専任チームを組み、実務3年目安のエンジニアを月額1,500USD(約22.5万円)で公開しています。1名から最短2週間で開始でき、増員は最短1週間、合わない場合のリプレイスメント保証もあります。単価には給与・法定費用・賞与・日本人PMのフロント・稼働管理が含まれ、法人設立にかかる資本金・監査・税務・労務管理は一切不要です。
2018年から約100社と付き合ってきて、「まずラボ型で10名のチームを1年回し、規模と稼働が読めた段階で法人化する」順で進めた会社のほうが、最初から法人を作った会社より定着率も費用対効果も良い例を多く見ています。
段階的に進める——規模が読めてから法人化
進め方の順は、目的を1行で書く→売上を立てるなら法人、人財なら駐在員事務所・EOR・ラボ型→規模と期間が読めたら法人化、です。現在の体制と要件をお聞かせいただければ、法人設立と代替案の総費用を並べた概算でお答えします。法人設立を「進出の第一歩」ではなく「規模が読めた後の選択肢」に置くのが、ベトナム進出で失敗しない近道。
【FAQ】ベトナム法人設立に関するよくある質問

ベトナム法人設立について、当社によく寄せられる質問をまとめました。自社の目的に法人が必要かどうかを含め、現在の体制と要件をお聞かせいただければ無料相談でお答えします。
ベトナム法人設立にかかる期間はどのくらいですか?
所要期間の標準を示した公的な基準や業界調査は確認できないため、具体的な月数は示しません。企業登録証明書(ERC)は条件を満たした書類の提出日から3営業日以内に手続きが行われるとされていますが(ジェトロ)、日本側の書類準備と設立後の稼働準備を含めると、これに数か月単位の期間が加わります。業種規制や書類不備があるとさらに延びます。
費用はいくらかかりますか?
費目は代行費・翻訳公証・行政手数料・オフィス敷金・印鑑口座税務登録です。総額の相場を示した公的統計や業界団体の一次調査は確認できないため、本稿では金額を示しません。見積もりを取るときは、これらの費目がどこまで含まれているかを揃えたうえで、資本金と初年度の維持費(会計税務・法定監査・賃料・人件費)を合算して判断してください。
資本金はいくら必要ですか?
IT・一般サービス業に法定最低額はありません。金額は事業計画上の運転資金と駐在員のビザ要件から逆算します。ジェトロによれば、労働許可証が免除されるのは出資額が30億ドン以上の有限責任会社の所有者・出資社員などで、30億ドン未満は労働許可証が必要な区分です。ERC発行後90日以内に全額払込が必要です。
外資100%で設立できますか?
IT・ソフトウェア・コンサルティングなど多くの業種で可能です。ただし通信・銀行など出資比率に上限がある業種、広告など合弁が義務の業種、小売・物流・教育・医療など追加ライセンスが要る業種があります。上限の比率は業種ごとに異なるため、事業分類ごとの個別確認が必要です。
開発拠点を作るには法人が必要ですか?
必須ではありません。現地で売上を立てないなら、雇用代行(EOR)で法人なしに直接雇用するか、ラボ型のオフショア開発で専任チームを月額で持てます。規模と期間が読めてから法人化するのが、費用と失敗を抑える順。
まとめ: ベトナム法人設立は設立費用・資本金・維持費の合算で見る——目的で形を選び、人財目的なら法人の前にEOR・ラボ型
ベトナムの法人設立は、2026年時点では一人有限責任会社を標準に、書類の認証→投資登録・企業登録→資本金の払込→税務・労務登録の順で進み、費用は設立費用・資本金・毎年の維持費の3つを合算して見る必要があります。3月の改正投資法で先にERCで法人を作れる順序に変わり、9月からはアポスティーユで書類認証が簡素化されました。一方で、資本金は駐在員のビザから逆算して30億ドン以上を検討し、ERC後90日以内に払い込む必要があり、外資系企業には毎年の法定監査・VAT月次申告・法人税の四半期予定納税・移転価格文書が課されます。失敗は、資本金不足・業種規制の見落とし・バーチャルオフィス・合弁比率・名義貸しの5つに集中しており、いずれも目的に対して形を急いだときに起きています。
行動に移すなら、次の順で進めてください。
- 自社の目的を「現地で売上を立てる」か「人財・開発力を確保する」かの1行で書く
- 売上を立てるなら法人設立を、設立費用+資本金+初年度の維持費を合算した総額で、資本金はビザから逆算、の前提で計画する
- 人財が目的なら、駐在員事務所(調査)・雇用代行(直接雇用)・ラボ型開発(開発チーム)で始め、規模と期間が読めてから法人化する
- どちらでも、2026年の法改正を反映し、設立後の会計・税務・労務・ビザまで一貫して支援できる専門家を選ぶ
当社のラボ型開発は、実務3年目安のエンジニアを月額1,500USD(約22.5万円)で公開し、1名から最短2週間で開発チームを組めます。法人なしで特定の人財を直接雇いたい場合は雇用代行(EOR)も提供しています。現在の体制と要件をお聞かせください。法人設立と代替案の総費用を並べた概算見積もりでお答えします。