ベトナムの労働法と雇用の基本【2026年版】労働契約の種類・試用期間・社会保険・解雇の実務

2026.09.14|ノウハウ|文: 中元 亨

「ベトナムで人を雇いたいが、日本の感覚で契約書を作って大丈夫なのか」——現地法人の立ち上げやエンジニアの採用を控えた方から、こうした相談をよく受けます。1年契約を毎年更新してよいのか、試用期間はどれくらい置けるのか、社会保険の会社負担はいくらか、辞めてもらうときに何が必要か。条文の日本語仮訳は公開されていますが、それを自社の実務に翻訳する作業で止まってしまうのが実情です。

結論から言うと、押さえるべきは5分野です。労働契約の種類と試用期間、労働時間と休暇、賃金と最低賃金、社会保険と労働組合経費、そして契約の終了。いずれも2019年労働法(法律45/2019/QH14、2021年1月1日施行)に条番号つきで定められており、数値で覚えられます。そのうえで、日本企業が取れる形は「現地法人で直接雇う」「EOR(雇用代行)を使う」「開発を委託する」の3つがあり、どれを選ぶかで労働法上の雇用主責任を負う主体が変わります。

はじめにお断りしておきます。本記事は公開情報を整理した一般的な解説であり、法的助言ではありません。ベトナムの労働法令は改正が多く、最低賃金は毎年、社会保険法は2025年7月、外国人の労働許可証は2025年8月の政令で変わりました。本文の数値にはすべて出典と時点を添えますので、実際の契約や手続きは、現地の弁護士・会計事務所・社会保険労務士に確認したうえで進めてください。

本記事では、根拠法令と日本との違いの全体像、労働契約の種類と試用期間、労働時間・時間外・休暇、賃金と社会保険の負担、契約の終了(解雇・退職手当)、そして雇う形の3択と雇用主責任の所在、よくある質問の順に解説します。数値は表にまとめ、条番号を併記しました。社内資料の下敷きにしてください。

私は人材業界の出身で、2018年からホーチミンで日系企業の採用と開発体制づくりに携わり、約100社の相談に乗ってきました。多いのは「1年契約を更新していたら無期契約になっていた」「試用期間中の不採用を口頭で伝えてもめた」「減給処分が違法だと指摘された」の3つです。いずれも制度を先に知っていれば避けられたものです。この記事を読み終えるころには、自社がベトナムで人を雇うべきか、別の形を取るべきかまで判断できるはずです。

目次
  1. ベトナムの労働法と雇用の全体像
  2. 根拠法令と施行日の一覧
  3. 日本と違う7点
  4. この記事の使い方と免責
  5. 労働契約の種類と試用期間
  6. 無期労働契約と有期労働契約の違い、更新は原則1回まで(労働法20条)
  7. 試用期間の上限は職種で4段階、賃金は正規の85%以上(25条・26条)
  8. 契約書の言語と必須記載事項(21条)
  9. 入口の設計ミスで起きること
  10. 労働時間・時間外・休暇
  11. 所定労働時間と時間外の上限(105条・107条)、割増率の一覧
  12. 年次有給休暇は12日、5年ごとに1日加算(113条)
  13. 法定祝日は年11日(112条)、2026年の改正動向とテト休暇
  14. 賃金と社会保険
  15. 地域別最低賃金(2026年1月1日施行・政令293/2025/ND-CP)
  16. 社会保険・医療保険・失業保険の料率と算定基礎
  17. 給与から人件費の総額へ
  18. 契約の終了——解雇できる事由と手続き、予告期間、退職手当
  19. 使用者からの一方的解除は法定事由のみ(36条)と予告期間
  20. 懲戒処分は限定列挙、減給は認められない(124条)
  21. 退職手当の計算(46条)
  22. 日本企業がベトナム人を雇う3つの形
  23. 3つの形の比較(雇用主・労働法の適用・撤退のしやすさ)
  24. 開発委託(ラボ型)なら発注者は雇用主責任を負わない
  25. 向く案件と向かない案件
  26. ベトナムの労働法と雇用に関するよくある質問
  27. Q1. 有期労働契約は何回まで更新できますか?
  28. Q2. 試用期間を延長することはできますか?
  29. Q3. 懲戒処分として減給できますか?
  30. Q4. 外国人従業員も社会保険に加入させる必要がありますか?
  31. Q5. 日本からベトナムの会社に開発を委託するだけでも、ベトナム労働法を守る必要がありますか?
  32. まとめ: 数値と条番号で制度を押さえ、そのうえで「雇う形」を選ぶ

ベトナムの労働法と雇用の全体像——2019年労働法(45/2019/QH14)と2025〜2026年の改正

ベトナム2019年労働法と関連法令を確認する場面

ベトナムで人を雇うときの土台は、2019年に成立した労働法(法律45/2019/QH14、2021年1月1日施行)です。労働契約、労働時間、休暇、賃金、解雇までがこの1本に条番号つきで定められており、そこに社会保険法や政令による改正が乗る構造になっています。まずは「何を読めばよいか」を法令の一覧で押さえてください。改正の多い分野なので、数値には必ず時点が付いて回ります。

根拠法令と施行日の一覧

法令

施行日

雇用実務での位置づけ

労働法(Law No.45/2019/QH14)

2021年1月1日

労働契約・試用期間・労働時間・休暇・解雇の基本規定

社会保険法(Law No.41/2024/QH15)

2025年7月1日

加入対象の見直し。外国人労働者の加入義務が拡大

政令219/2025/ND-CP

2025年8月7日

外国人労働者の労働許可証の申請・管理(政令152/2020/ND-CPの該当規定は失効)

政令293/2025/ND-CP

2026年1月1日

地域別最低賃金の改定(平均7.2%の引き上げ)

改正雇用法(Law No.74/2025/QH15)

2026年1月1日

失業保険制度の改正

ベトナムで人を雇うときの入口から出口までの流れと条番号——契約(20条・21条)、試用期間(25条・26条)、労働時間と休暇(105条・107条・112条・113条)、賃金と社会保険、契約の終了(35条・36条・46条・124条)

出典: 労働法典の条文はジェトロ「労働法典第45/2019/QH14号【日本語仮訳】」(https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/vn/business/pdf/45-2019-QH14-jp.pdf)、社会保険・労働許可証・最低賃金の施行日と法令番号はジェトロ「外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用(ベトナム)」(最終更新2025年9月12日)およびジェトロ ビジネス短信によります(2026-09-21確認)。

日本と違う7点——契約の更新回数、減給処分、解雇事由ほか

日本の労働基準法の感覚で設計すると、次の7点でつまずきます。いずれも条番号で確認できるものです。

  1. 有期契約の更新は原則1回まで。3通目の契約は無期契約とみなされます(労働法20条)
  2. 懲戒処分は限定列挙で、日本で一般的な減給は含まれません(124条)
  3. 解雇は法定事由に該当する場合のみ可能です(36条)。「能力不足」だけでは足りません
  4. 週の所定労働時間の上限は48時間(105条)。条文は「国家は、使用者に、労働者にて対して週40時間労働を実施するよう奨励する」と定めており、40時間は義務ではなく奨励です
  5. 時間外労働には労働者の同意が必要で、年200時間(特定業種は300時間)が上限です(107条)
  6. 産前産後休暇は6か月。日本より長く、社会保険から給付されます
  7. 勤務地は労働契約に基づき決定され(28条)、労働契約と異なる業務への一時的な異動は年間合計60営業日までで、それを超える異動には労働者の書面による同意が必要です(29条)

この記事の使い方と免責

以降の各章では、契約・労働時間と休暇・賃金と社会保険・契約の終了の順に、数値と条番号を表でまとめます。表はそのまま社内資料の下敷きにしていただいて構いませんが、本記事は公開情報を整理した一般的な解説であり、法的助言ではありません。ベトナムの労働法令は改正が多く、料率や金額は時点によって変わります。実際の契約書の作成、就業規則の届出、解雇の判断は、現地の弁護士・会計事務所・社会保険の専門家に確認したうえで進めてください。

制度を知ることと、制度を自社で負うかどうかを決めることは、別の打ち手です。まずは知るところから始めます。次章は、雇用の入口にあたる労働契約と試用期間です。

労働契約の種類と試用期間——無期・有期・更新回数、職種別の上限日数

ベトナムの労働契約の種類と試用期間を確認して署名する場面

雇用の入口は労働契約です。ベトナムの労働契約は無期と有期の2種類しかなく、有期には期間と更新回数の上限があります。ここを知らずに日本式の1年契約を回すと、意図しない無期契約が出来上がります。試用期間も職種ごとに上限日数が決まっており、賃金にも下限があります。入口の設計が、そのまま出口の選択肢を決めると考えてください。

無期労働契約と有期労働契約の違い、更新は原則1回まで(労働法20条)

契約の種類

期間

更新のルール

主な使い方

無期労働契約

期限の定めなし

正社員として長期に雇う場合

有期労働契約

1回の契約期間は36か月以下

原則1回まで更新可。3通目は無期契約とみなされる

立ち上げ期、業務量が読めない期間

出典: 労働法20条(ジェトロ「労働法典第45/2019/QH14号【日本語仮訳】」2026-09-21確認)。条文は、有期労働契約を「契約の効力発生の時点から36か月を超えない期間」と定め(20条1項b)、期間満了日から30日を経過しても新たな契約を締結しない場合は無期労働契約になる(20条2項b)、新たに締結する契約が有期である場合は一回に限り締結でき、その後は無期労働契約を締結しなければならない(20条2項c)と定めています。

つまり、ベトナム人スタッフを「1年契約で毎年更新」という日本でよくある形で回すと、3通目に入った時点で無期契約になります。無期になれば、後述する解雇の予告期間も45日に伸びます。有期を使うなら、1通目を12か月、2通目を24か月と設計し、合計36か月の運用を終えた時点で無期にするか終了するかを決める、といった見通しを最初に持っておくのが安全です。

試用期間の上限は職種で4段階、賃金は正規の85%以上(25条・26条)

職種

試用期間の上限

企業法上の管理職

180日

短期大学卒以上の専門職・技術職

60日

中級技術者・専門技術者

30日

その他の業務

6営業日

出典: 労働法25条・26条(ジェトロ「労働法典第45/2019/QH14号【日本語仮訳】」2026-09-21確認)。25条は「一つの業務に対して一回のみ試用期間が設定でき」、上記の日数を「超えない」と定めています。26条は「試用期間の労働者の賃金は、両当事者の合意による。ただし、少なくともその業務に対する賃金額の85%でなければならない」と定めています。

日本と大きく違うのは、試用が雇用契約とは別個のものとして扱われる点です。試用期間中は本採用しない判断ができ、その場合は期間の満了前に通知するという整理が広く示されています(通知期限の日数は解説により幅があるため、契約書と就業規則で明記しておくのが確実です)。逆に言えば、期限を過ぎてから「やはり本採用しない」と伝えるのは失敗のもとです。

契約書の言語と必須記載事項(21条)

労働法14条は、労働契約は書面によって締結し、2部作成して労働者が1部・使用者が1部を保有しなければならないと定めています(1か月未満の有期契約などの例外あり)。契約言語についての明文の規定は条文にありませんが、当社が現地で関わった案件では、ベトナム語版と日本語(または英語)のバイリンガル契約を用意するのが通例です。ベトナム語版を用意しないまま紛争になると、契約条項の解釈で不利になり得ます。

記載すべき事項は労働法21条1項に列挙されています。使用者の名称・所在地・締結者の氏名と職位、労働者側の締結者の氏名・生年月日・性別・居住地・証明書番号、業務及び勤務地、契約の期間、賃金額と支払いの形式・期限・手当その他の補助、昇格・昇給制度、労働時間と休憩時間、労働保護具、社会保険・健康保険・失業保険、職業の水準・技能の訓練と養成・向上の10項目です。特に「業務内容と勤務場所」は、前章で触れたとおり変更に本人の同意が要るため、書き方の粒度に注意してください。

入口の設計ミスで起きること——現場でよく聞く2つの相談

私は2018年からホーチミンで日系企業の採用を支援し、約100社の相談に乗ってきましたが、契約まわりの相談は2つに集中します。1つ目は「1年契約を毎年更新していたら、3年目に無期契約になっていた」というものです。人員計画上は期間満了で整理するつもりだったのに、その選択肢が消えていた、という形で表面化します。

2つ目は「試用期間中の不採用を口頭で伝えてもめた」というものです。記録が残っておらず、評価の根拠も文書化されていないため、話し合いが長引きます。契約の型を決め、試用期間の評価を書面で残す。この2つを最初にやるかどうかで、1年後の負担がまったく変わるのが実情です。

労働時間・時間外・休暇——1日8時間/週48時間、残業は年200時間、有給12日、祝日11日

ベトナムの労働時間と時間外の上限のもとで働くエンジニア

労働時間と休暇は、開発やサービスの稼働計画に直接効いてきます。ベトナムの所定労働時間は日本より週あたりで長く、その一方で時間外には厳しい上限と同意の要件があり、旧正月(テト)には長い休みが入ります。数字を押さえておけば、日本側のスケジュールを立てるときの前提が揃います。

所定労働時間と時間外の上限(105条・107条)、割増率の一覧

項目

規定

根拠

通常の労働時間

1日8時間、週48時間以内

労働法105条。国は週40時間制の適用を推奨

変形労働時間

週48時間以内なら1日10時間まで設定可

105条

有害・危険要因に接する作業

接触時間の上限は国家技術基準および関係法令による(105条に具体的な時間数の定めはない)

105条3項

時間外の上限(日)

通常労働時間の50%まで(8時間勤務なら4時間)

107条

時間外の上限(月)

40時間まで

107条

時間外の上限(年)

200時間まで(特定業種は300時間)

107条

時間外の同意

労働者の同意が必要。拒否を理由とした不利益取り扱いは不可

107条

割増率は労働法98条に定めがあり、通常労働日は少なくとも150%、週休日は少なくとも200%、祝日・正月・有給休暇日は少なくとも300%です。深夜労働(22時〜翌6時・106条)は、通常の労働日の賃金の少なくとも30%が追加で支払われ、深夜に時間外労働をする場合はさらに少なくとも20%が追加されます(98条2項・3項)。

注意したいのは、週の上限が48時間である点です。日本語の解説では「週40時間」と書かれているものもありますが、105条2項は週40時間制を「奨励する」と定めているだけで、上限は週48時間です。自社の就業規則を作るときは、この違いを踏まえて現地の専門家に確認してください。

年次有給休暇は12日、5年ごとに1日加算(113条)

勤務条件

年次有給休暇の日数

通常の労働条件

12日

未成年者・障がいのある労働者、有害・危険作業

14日

特に有害・危険な作業

16日

12か月勤務した労働者に上記の日数が付与され、勤続5年ごとに1日が加算されます(労働法113条)。入社初年度は按分して付与するのが一般的です。

このほか、労働法115条は本人の結婚3日、子の結婚1日、両親・配偶者・子の死亡3日を有給の慶弔休暇と定めています。産前産後休暇は出産前後に合計6か月で、社会保険から給付されます(ジェトロ「外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用(ベトナム)」)。日本と比べると産休が長く、要員計画では代替要員の確保を前提に置いておく必要があります。

法定祝日は年11日(112条)、2026年の改正動向とテト休暇

法定の有給祝日は労働法112条に定められ、元日1日、テト(旧正月)5日、フン王命日1日、南部解放記念日(4月30日)1日、メーデー(5月1日)1日、国慶節(9月2日)2日の合計11日です。加えて、11月24日を「ベトナム文化の日」として祝日に加える動きがあり、ジェトロ「祝祭日|ベトナム」(2026年7月1日更新)の2026年の一覧にはこの日が掲載されています。そのため2026年のカレンダー上の祝日は12日です。ただし、これを労働法112条の法定祝日として正式に追加する改正は、手続きが進められていると報じられているものの、成立したかどうかを一次情報で確認できていません(2026年9月時点)。契約書や就業規則で112条を参照する場合、条文上は11日のままである可能性があります。なお、日曜と重なった祝日の振替休日は、この11日・12日とは別のカウントです。

実務で効くのはテトです。2026年のテト休暇は2月14日から2月22日までの9連休になると案内されています。当社の拠点があるホーチミンでも、テトの前後1週間は稼働が落ちるのが通例です。日本との時差は2時間しかないため日々の連携は取りやすいのですが、年に一度だけ、この長期休暇をスケジュールに織り込む必要があります。祝日の一覧は「ベトナム 祝日」の記事でも整理しています。

御社の開発計画では、テトの9連休と年200時間という時間外の上限を、どこまで前提に組み込めているでしょうか。人数と期間の設計は、この2つを入れて初めて現実的な数字になります。

賃金と社会保険——地域別最低賃金の2026年改定と、雇用主負担21.5%+労働組合経費2%

ベトナムの最低賃金と社会保険の雇用主負担を計算する場面

人件費を給与の額面だけで見積もると、必ず足が出ます。ベトナムでは地域別の最低賃金が毎年のように改定され、社会保険・医療保険・失業保険の雇用主負担に加えて労働組合の活動費もかかるためです。ここでは金額と料率を出典つきで並べ、最後にエンジニア1名の月額を総額で試算します。

地域別最低賃金(2026年1月1日施行・政令293/2025/ND-CP)

地域

月額最低賃金

円換算の目安

主な地域

第1地域

5,310,000ドン

約3.2万円

ハノイ、ホーチミン、ハイフォンなどの都市部

第2地域

4,730,000ドン

約2.8万円

ダナンなど

第3地域

4,140,000ドン

約2.5万円

地方の中核都市

第4地域

3,700,000ドン

約2.2万円

その他の地方

出典: ジェトロ ビジネス短信「最低賃金は2026年1月に平均7.2%引き上げの正式決定(ベトナム)」(https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/11/feaee587a59429f9.html、2026-09-21確認)。政令293/2025/ND-CPは2025年11月10日公布・2026年1月1日施行、改定幅は平均7.2%(第1地域+7.1%、第2・第3地域+7.3%、第4地域+7.2%)で、月額は3,700,000〜5,310,000ドン、時給は第1地域25,500ドン・第2地域22,700ドン・第3地域20,000ドン・第4地域17,800ドンです。円換算は1ドン=0.006円の目安で計算した参考値です。なお、ジェトロ「外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用」(最終更新2025年9月12日)には2024年7月1日改定時の第1地域496万ドンが掲載されており、参照する資料の時点によって金額が変わる点に注意してください。

最低賃金はワーカー層の下限であり、IT技術者の相場とは桁が違います。ただし後述する社会保険の算定基礎の下限として使われるため、無関係ではありません。

社会保険・医療保険・失業保険の料率と算定基礎

保険の種類

雇用主負担

労働者負担

社会保険

17.5%

8%

医療保険(健康保険)

3%

1.5%

失業保険

1%

1%

小計

21.5%

10.5%

労働組合経費(雇用主負担)

2%

合計

23.5%

10.5%

出典: ジェトロ「外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用(ベトナム)」(https://www.jetro.go.jp/world/asia/vn/invest_05.html、最終更新2025年9月12日・2026-09-21確認)。公的保険の根拠は社会保険法41/2024/QH15、政令158/2025/ND-CP、決定595/QD-BHXH。労働組合経費2%の根拠は労働組合法12/2012/QH13、政令191/2013/ND-CP、決定1408/QD-TLDで、算定の基礎は「すべての従業員の公的保険料の算定の基礎となる賃金の総額」とされています。

算定の基礎は、上記のジェトロの記載では「すべての従業員の公的保険料の算定の基礎となる賃金の総額」です。外国人労働者については、2022年1月1日以降、ベトナム国内の雇用者と12か月以上の有期労働契約に基づき就労する場合はベトナム人と同じ料率が適用される、とジェトロは記載しています。算定基礎の上限額の具体的な金額は原典で確認できなかったため、本記事には記載していません。

給与から人件費の総額へ——エンジニア1名の試算

仮に月額給与1,000USD(約15万円。1USD=150円換算目安)のエンジニアを現地法人で直接雇用するとします。雇用主負担の21.5%に労働組合経費2%を加えると約235USD(約3.5万円)が上乗せされ、月額は約1,235USD(約18.5万円)になります。ここにテト賞与(13か月目の給与)の慣行が加わると、年間では実質13〜14か月分の人件費として見ておく必要があります。さらに現地法人を持つなら、会計・税務・労務の外注費と駐在員の費用が固定で乗ります。

比較の材料として、当社が公開している開発委託の単価は実務3年目安で1,500USD(約22.5万円)、5年で2,000USD、10年目安とブリッジSEで3,000USDです。この金額には雇用主負担も労務管理も含まれています。給与の額面だけを並べて「直接雇ったほうが安い」と結論づけるのは失敗のもとで、総額と管理工数まで積んで初めて比較になります。

契約の終了——解雇できる事由と手続き、予告期間、退職手当

ベトナム労働法の解雇手続きと予告期間を確認する打ち合わせ

雇用で最も相談が多いのが出口です。ベトナムの労働法は労働者保護が厚く、使用者からの一方的な契約解除は法律に列挙された事由に限られます。手続きを飛ばすと違法解雇と判断され、復職や賃金補償の負担が生じます。ここでも本記事は一般的な整理にとどまるため、実際の判断は現地の弁護士に確認してください。

使用者からの一方的解除は法定事由のみ(36条)と予告期間

労働法36条には、使用者が労働契約を一方的に解除できる場合が限定的に列挙されています。解説で共通して挙げられるのは、労働者が業務を繰り返し遂行しない場合、病気や事故による長期の療養が続く場合、天災・火災など事業の継続が困難な場合、企業再編や技術革新による人員削減、正当な理由のない無断欠勤が続く場合などです。日本の「能力不足による普通解雇」に相当する運用は想定されておらず、就業規則に基づく警告や記録が前提になります。

契約の種類

一方的解除の予告期間

無期労働契約

45日前

有期労働契約(12〜36か月)

30日前

有期労働契約(12か月未満)

3営業日前

出典: 労働法35条・36条(ジェトロ「労働法典第45/2019/QH14号【日本語仮訳】」2026-09-21確認)。35条1項は労働者が一方的に終了させる場合の予告期間として無期45日前・12か月以上36か月以下の有期30日前・12か月未満の有期3営業日前を定め、36条2項は使用者側にも同じ日数を定めています。35条2項は、合意どおりの業務・勤務地が保障されない場合、賃金全額の支払いを受けない場合、虐待・暴行・侮辱的な言動や労働の強要を受けた場合、職場でのセクシャルハラスメントを受けた場合などに、労働者が予告を要せず終了できると定めています。

つまり、無期契約の社員が辞めると言い出した場合も、原則として45日前の予告があります。採用の計画を立てるときは、内定者が在職中であれば退職までに1か月半前後かかる前提で逆算しておくと、見込みがずれません。

懲戒処分は限定列挙、減給は認められない(124条)

労働法124条が定める労働規律処分の形式は、譴責、6か月を超えない昇給期日の延期、降格、解雇の4つです(ジェトロ「労働法典第45/2019/QH14号【日本語仮訳】」2026-09-21確認)。この4つに、日本で一般的な「減給」は含まれていません。127条は、労働規律処分を行うことに代えて罰金を科し賃金を減額することを厳禁行為として挙げています。

私が受けた相談にも、日本式に始末書と減給で対応しようとして、本人から「それは違法だ」と指摘されたというものがありました。懲戒を科すには就業規則にその種類と手続きを定めて労働局に届け出ておく必要があり、調査・弁明の機会・懲戒会議といった手続きを経ないと処分そのものが無効になり得ます。労働法119条1項は、10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則の登録を義務づけているため、現地法人を作るなら初期に整備しておく項目です。

退職手当の計算(46条)

労働法46条は、丸12か月以上勤務した労働者に対し、勤務した1年につき半月分の賃金に相当する退職手当を支払う責任を使用者に課しています。算定の基礎となる勤務期間からは、失業保険に加入していた期間と、すでに退職手当・失業手当の支払いを受けた期間が差し引かれます。賃金は退職時の直近6か月の労働契約に基づく賃金の平均です。年金の受給条件を満たす場合と、36条1項e号(正当な理由なく5営業日以上連続して無断欠勤した場合)に該当する場合は、この義務の対象外です(ジェトロ「労働法典第45/2019/QH14号【日本語仮訳】」2026-09-21確認)。

実務上は、失業保険に継続して加入していれば退職手当の負担はごく小さくなるケースが多いものの、加入漏れがあると一気に会社の負担として跳ね返ります。社会保険の加入手続きを確実に行うことが、結果的に出口のコストを下げます。

ここまでが、ベトナムで「自社が雇用主になる」場合の制度です。ただし日本企業がベトナムの人財を使う方法は、自社で雇う形だけではありません。次章で、雇用主責任を誰が負うかという視点から3つの形を比べます。

日本企業がベトナム人を雇う3つの形——直接雇用・EOR・開発委託で雇用主責任はどう変わるか

TALENTBASE VIETNAMの日本人PMとベトナム人エンジニアのチーム

ここまで見てきたベトナム労働法の義務は、すべて「雇用契約の当事者である雇用主」にかかります。裏を返せば、自社が雇用主にならない形を選べば、その義務は自社にはかかりません。日本企業が取れるのは、現地法人での直接雇用、EOR(雇用代行)、開発委託(ラボ型)の3つです。まず誰が何を負うのかを整理します。

3つの形の比較(雇用主・労働法の適用・撤退のしやすさ)

項目

現地法人で直接雇用

EOR(雇用代行)

開発委託(ラボ型)

雇用契約の当事者

自社の現地法人

代行事業者

受託会社(当社)

ベトナム労働法の雇用主責任

自社

代行事業者

受託会社

社会保険・個人所得税の手続き

自社

代行事業者

受託会社

業務の進め方

自社が直接指示

実務は自社が依頼、労務は事業者。指揮命令の設計に注意

発注者は要件と優先順位を伝え、実務の指示は受託会社

現地法人の要否

必要(設立に数か月)

不要

不要

契約の準拠法・支払い

ベトナム法・現地送金

事業者による

当社は日本国内法人・日本法準拠・海外送金不要

立ち上げの早さ

法人設立から数か月

数週間

当社は最短2週間、増員は約1週間

縮小・撤退

解雇規制と法人清算の手続き

契約の解除

当社は縮小・交代を1か月単位で調整

向くケース

ベトナム国内で売上を立てる、現地拠点が事業の本体

現地に人を置きたいが法人は作りたくない

日本向けの開発リソースを確保したい

ベトナム人を雇う3つの形で雇用主責任がどう変わるかの比較——現地法人での直接雇用は自社、EOR(雇用代行)は代行事業者、開発委託(ラボ型)は受託会社が雇用主となる

この表で最初の分岐になるのは「ベトナム国内に売上を立てるかどうか」です。現地で商売をするなら法人と直接雇用が前提になります。そうでなく、人材を確保したいだけであれば、雇用主責任を自社で負う必要はありません。サービスの選び方や費用の相場は「ベトナム 雇用代行」「EORとは」「雇用代行 費用」の記事で詳しく扱っています。法人設立の手順は「ベトナム 法人設立」の記事をご覧ください。

開発委託(ラボ型)なら発注者は雇用主責任を負わない——当社の位置づけ

当社が提供している開発委託(ラボ型)では、エンジニアの雇用主は当社です。労働契約の締結も、社会保険・医療保険・失業保険の納付も、試用期間の運用も、退職や交代の手続きも当社側で完結します。発注者である日本企業は、ベトナム労働法上の雇用主責任を負いません。契約と支払いは日本国内法人・日本法準拠で、海外送金も不要です。当社はEOR(雇用代行)も提供しているため、現地に人を置きたい場合はそちらを選ぶこともできます。

体制は、2,000名以上のIT人財データベース(日本語N1〜N2相当を含む)から直接アサインします。協力会社や紹介経由の仲介マージンは入りません。パターンAの日本人PM・ブリッジSE込みの構成と、パターンBのエンジニアのみの構成があり、1名から契約できます。流れは打ち合わせ→アサイン(約1週間)→候補者面談(約1週間)→開始で、最短2週間です。品質は、日本人PMによる設計レビュー、Gitのプルリクエストを使ったコードレビューの標準化、リリース前のダブルチェックの3点で担保しています。

実際の例として、介護記録SaaSの「CareViewer」では日本語対応のブリッジSE1名とフルスタックエンジニア2名の体制で、週次で優先順位を決めながら継続開発を進めています。要件が動くプロダクトでも、雇用や労務の手続きは当社側に閉じているため、発注者は開発の中身に集中できます。体制の詳細は「ラボ型開発」の記事でも整理しています。

向く案件と向かない案件

正直に書きます。ベトナム国内の顧客に販売する、現地で調達や製造を行う、現地の許認可が要る——こうした事業なら、現地法人を作って直接雇用するのが本筋です。本記事の前半で整理した労働法の要件を、自社で引き受ける覚悟が要ります。逆に、日本向けのシステム開発やアプリ開発の要員が欲しいだけであれば、雇用主責任まで抱える必要はありません。

また、現地に日本人の常駐者を置いて自社の文化で育てたい、長期で幹部を育成したいという狙いがあるなら、委託よりもEORや直接雇用が向きます。ここは単価ではなく、何を自社に残したいかで決める話です。御社が本当に必要としているのは「雇用」でしょうか、それとも「開発の成果」でしょうか。

ベトナムの労働法と雇用に関するよくある質問

ベトナムの労働法と雇用に関する質問に答える担当者

ベトナムでの雇用について、相談の場で繰り返し聞かれる質問を5つにまとめました。いずれも一般的な整理であり、個別の判断は現地の専門家にご確認ください。

Q1. 有期労働契約は何回まで更新できますか?

ベトナム人労働者については原則1回までで、3通目の契約は無期労働契約になります(労働法20条2項c)。1回の契約期間の上限は36か月です(20条1項b)。なお、外国人労働者の更新回数の扱いは原典で確認できなかったため、本記事では触れていません。

Q2. 試用期間を延長することはできますか?

できません(25条は「一つの業務に対して一回のみ試用期間が設定でき」と定めています)。上限は企業法上の管理職が180日、短大卒以上の専門技術職が60日、中級技術者が30日、その他が6営業日(25条)で、試用中の賃金は正規の85%以上です(26条)。本採用しない場合は期間が満了する前に通知し、評価の根拠を書面で残してください。

Q3. 懲戒処分として減給できますか?

できません。労働法124条が定める懲戒処分にはけん責、6か月以内の昇給延期、降格、懲戒解雇が挙げられており、減給は含まれていません。懲戒を科すには、就業規則にその種類と手続きを定めたうえで、調査と弁明の機会を経る必要があります。

Q4. 外国人従業員も社会保険に加入させる必要がありますか?

2025年7月1日施行の改正社会保険法(41/2024/QH15)により、労働許可証を持ち12か月以上の労働契約を締結している外国人は原則として加入対象です。日本の親会社から派遣される社内異動者は免除、失業保険は対象外という整理が示されています。

Q5. 日本からベトナムの会社に開発を委託するだけでも、ベトナム労働法を守る必要がありますか?

委託(請負・準委任)であれば、エンジニアの雇用主は受託会社であり、発注者がベトナム労働法上の雇用主責任を負うことはありません。当社の開発委託でも雇用主は当社で、契約と支払いは日本国内法人・日本法準拠、海外送金は不要です。ただし業務の進め方が実質的な直接雇用に近づくと別の論点が生じるため、契約書と運用の設計は必要。

まとめ: 数値と条番号で制度を押さえ、そのうえで「雇う形」を選ぶ

ベトナムで人を雇うときの土台は2019年労働法(45/2019/QH14、2021年1月1日施行)です。労働契約は無期と有期の2種類で、有期は1回36か月以下・更新は原則1回(20条)。試用期間は管理職180日、短大卒以上の専門技術職60日、中級技術者30日、その他6営業日で、賃金は正規の85%以上(25条・26条)。労働時間は1日8時間・週48時間、時間外は月40時間・年200時間(107条)。年次有給は12日で5年ごとに1日加算(113条)、法定祝日は年11日(112条。2026年は「ベトナム文化の日」が加わりカレンダー上は12日ですが、112条への正式な追加は成立を確認できていません)です。社会保険等の雇用主負担は21.5%、労働組合経費2%を加えると23.5%(ジェトロ・2025年9月時点)。最低賃金は2026年1月1日施行の政令293/2025/ND-CPで第1地域531万ドンに改定されました。出口では、一方的解除は法定事由のみ(36条)、予告は無期45日・有期30日、懲戒に減給は含まれず(124条)、退職手当は勤続年数×0.5×直前6か月平均賃金(46条)です。

ここで挙げた数値と条番号は、公開情報を整理した一般的な解説であり、法的助言ではありません。ベトナムの労働法令は改正が多く、最低賃金は毎年、社会保険法は2025年7月、外国人の労働許可証は2025年8月の政令で変わりました。本文には出典と時点を添えていますので、社内資料の下敷きにしたうえで、実際の契約書・就業規則・解雇の判断は現地の弁護士や会計事務所にご確認ください。

そして最後にもう一度お伝えしたいのは、これらの義務はすべて「雇用契約の当事者」にかかるという点です。ベトナム国内で売上を立てるなら現地法人での直接雇用が本筋ですが、日本向けの開発リソースが欲しいだけなら、雇用主責任まで抱える必要はありません。当社の開発委託(ラボ型)ではエンジニアの雇用主は当社で、社会保険の納付も退職・交代の手続きも当社側で完結し、契約と支払いは日本国内法人・日本法準拠、海外送金は不要です。雇用代行(EOR)も提供しています。サービスの比較はベトナムの雇用代行(EOR)、体制と費用はラボ型開発とはもあわせてご覧ください。現在の体制と要件をお聞かせいただければ、どの形が合うかの判断と概算見積もりでお答えします。合わない案件にはその旨も率直にお伝えします。

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