海外の人材を自社のメンバーとして迎えたいと考える企業の担当者なら、 「現地に法人がないと、ベトナムのエンジニアは雇えないのか」 「EORという言葉を聞いたが、派遣や業務委託と何が違うのか」 「費用はいくらで、法律上の問題はないのか」 ——このような疑問や不安をお持ちではないでしょうか。
EORとは、現地法人を設立せずに海外の人材を雇用できる仕組みであり、EOR事業者が法律上の雇用主となり、業務指示は依頼企業が行います。
法人設立の重さと業務委託の不安定さの間にあるこの仕組みを理解すれば、ベトナムのエンジニアを1名からでも「自社の専属人財」として抱える道筋が見えてきます。
この記事では、EOR(雇用代行)を使って海外人材の雇用を検討している方に向けて、
- EORの仕組みと3者の役割分担
- 法人設立・ラボ型開発との違いと向いている企業
- 給与・法定費用・手数料の内訳と相場
- 導入の流れと稼働までの期間
- ベトナム労働法と指揮命令の注意点
上記について、ベトナムで人材紹介事業として日系企業約100社と契約し、グループで2,000名以上のIT人財データベースを運用してきた当社の実務経験を交えながら解説しています。
自社の要件でいくらになるか、法人設立とどちらが合うかを判断する材料が揃いますので、ぜひ参考にしてください。
目次
- EOR(雇用代行)とは
- EORの定義と3者の役割分担
- EOR事業者が担う業務と自社に残る業務指示
- PEO・GEO・人材派遣との違い
- EORのメリットと向いている企業
- EORが向いている企業の特徴
- 法人設立との比較
- ラボ型開発(業務委託)との比較
- EORの費用
- 費用の内訳は給与・法定費用・手数料
- 手数料の型と公開料金
- ベトナムのエンジニアを1名雇う場合の月額例
- EOR導入の流れ
- 導入の5ステップと所要期間
- 稼働までを短縮する条件
- EORの注意点
- 試用期間・有期契約・解雇予告の規定(2026年度時点)
- 社会保険料とPE課税の考え方
- 指揮命令の範囲と契約で決めておくこと
- EOR事業者の選び方
- 確認すべき項目
- EORから法人設立へ切り替える目安
- 【FAQ】EOR(雇用代行)に関するよくある質問
- EORと人材派遣は何が違いますか?
- 日本本社から直接業務指示をしてもよいですか?
- 1名だけでも利用できますか?
- ラボ型開発で稼働中のメンバーをEORに切り替えられますか?
- どの国でも利用できますか?
- まとめ: EORは「法人は持たず、人財は自社で持つ」ための仕組み
EOR(雇用代行)とは——現地法人なしで海外人材を雇う仕組み

「EORというのは、要するに派遣と同じではないのか」——初めてこの言葉を聞いた方の多くが、まずここでつまずきます。
EORはEmployer of Recordの略で、日本語では「雇用代行」や「記録上の雇用主」と訳されます。
当社もベトナムでこのサービスを提供していますが、仕組みの理解が曖昧なまま検討を進めると、派遣や業務委託との違いで判断を誤りがちです。
この章では、EORの定義と3者の役割分担、混同されやすい手段との違いを整理します。
EORの定義と3者の役割分担
EORとは、海外の現地で法律上の雇用主となる事業者(EOR事業者)が、依頼企業に代わって人材を雇用する仕組みです。
依頼企業は現地法人を持たないまま、その人材に日々の業務指示を出し、成果を評価します。
登場人物は「依頼企業」「EOR事業者」「従業員」の3者で、役割分担は次の通りです。
項目 | 依頼企業(日本本社) | EOR事業者 | 従業員 |
|---|---|---|---|
雇用契約 | 結ばない | 現地法に基づき締結 | EOR事業者と締結 |
業務指示・評価 | 行う | 行わない | 依頼企業の指示で働く |
給与・社会保険・納税 | 費用を負担 | 手続きを代行 | 現地の制度に加入 |
採用の決定 | 決定する | 候補者の提示・契約手続き | - |

「雇用の器」をEOR事業者が持ち、「仕事の中身」を依頼企業が持つ、と整理すると分かりやすいです。
人材紹介の仕事で日系企業約100社と契約してきた当社の経験でも、「雇いたい人財は決まっているが、雇う器がない」という相談は珍しくありません。
EORは、この器を貸す仕組みです。
EOR事業者が担う業務と自社に残る業務指示
EOR事業者が担う業務は、主に次の4つです。
- 雇用契約:現地の労働法に準拠した雇用契約の作成と締結
- 給与:給与計算と支払い、個人所得税の源泉徴収と申告
- 保険:社会保険・医療保険・失業保険の加入手続きと納付
- 労務管理:労働許可、就業規則、休暇管理、退職手続き
逆に、依頼企業に残るのは「誰を採用するか」「何をしてもらうか」「どう評価するか」の3点です。
業務指示を自社が直接行える点が、成果物単位で契約する業務委託との最も大きな違いです。
ただし、雇用条件の変更や契約の終了は、EOR事業者を通じて現地法の手続きに従う必要があります。
「指示は自社、手続きはEOR」という線引きを最初に理解しておくと、運用でのすれ違いを防げます。
PEO・GEO・人材派遣との違い
EORと混同されやすい言葉に、PEO・GEO・人材派遣があります。
違いは「誰が法律上の雇用主か」と「どの法制度に基づくか」で整理できます。
手段 | 法律上の雇用主 | 主な用途 |
|---|---|---|
EOR | EOR事業者 | 現地法人なしで海外人材を雇用 |
GEO | EOR事業者(EORの別称) | EORとほぼ同じ |
PEO | 依頼企業とPEO事業者の共同雇用 | 現地法人がある企業の人事労務の外部化 |
人材派遣(日本) | 派遣会社 | 日本国内の労働者派遣法に基づく派遣 |
PEOは一般的に、すでに現地法人を持つ企業が人事労務を外部化する仕組みとされ、法人を持たない前提のEORとは出発点が異なります。
GEO(Global Employment Organization)は、EORとほぼ同義の呼称として使われることが多い言葉です。
日本の人材派遣は国内の労働者派遣法に基づく許可制度であり、海外の現地で雇用するEORとは法的な枠組みが別物です。
「派遣の海外版」と説明されることもありますが、雇用主も根拠法も異なる、というのが実情です。
EORのメリットと向いている企業——法人設立・ラボ型開発との違い

「この2人を手放したくない」——ラボ型開発を1年ほど続けた企業様から、当社がよく伺う言葉です。
EORのメリットは、法人設立の重さと業務委託の不安定さの間を埋められることにあります。
ここでは向いている企業の特徴を示したうえで、法人設立・ラボ型開発と何が違うのかを比較します。
EORが向いている企業の特徴
EORが向いているのは、次のいずれかに当てはまる企業です。
- 特定の人財を長く自社で抱えたい:ラボ型やフリーランスで稼働中の優秀なエンジニアを、専属メンバーとして迎えたい
- 法人設立は重いが、海外に自社メンバーを持ちたい:1〜3名の小規模チームでスモールスタートしたい
- 海外の労務・税務を自社で対応できない:人事・法務の専任者がいない中小企業やスタートアップ
共通するのは「人財は自社で持ちたいが、法人と労務は持ちたくない」という要望です。
私自身、ベトナムのIT企業でERPのプライム案件3件を上流から下流まで担当した経験があります。
その経験で言えば、開発の成否を分けるのは体制の大きさよりも「仕様を理解したメンバーが定着しているか」でした。
定着を重視する企業ほど、EORの効果を実感しやすいと考えています。
法人設立との比較——期間・初期費用・撤退
法人設立とEORの違いは、期間・初期費用・撤退の3点に集約されます。
比較項目 | 現地法人設立 | EOR |
|---|---|---|
稼働までの期間 | 行政手続きに加えて日本側の書類準備と設立後の稼働準備が必要 | 法人設立の行政手続きが不要で、候補者が決まっていれば雇用契約と登録手続きだけで始められる |
初期費用 | 設立代行費・翻訳と公証・行政手数料・オフィス費用がかかる | 初期費用は小さい |
維持コスト | 会計・税務顧問、オフィス賃料 | 月額手数料(給与・法定費用は別) |
撤退 | 清算手続きに長期間 | 雇用終了の手続きで完了 |

※期間・費用は2026年時点の一般的な目安で、業種・地域・事業者により変動します。
法人設立は、現地で売上を計上する、十数名以上を長期に雇う、といった場合には合理的な選択です。手続きの流れ・費用・期間は「ベトナム 法人設立」の記事にまとめています。
逆に、開発やバックオフィスのように契約主体が日本本社で完結する業務なら、EORで十分なケースが多いのが実態です。
撤退の容易さは見落とされがちですが、海外事業は計画どおりに進まないことも多く、「やめやすい」ことは経営上の大きな価値です。
ラボ型開発(業務委託)との比較——帰属と柔軟性
ラボ型開発は、開発会社が用意した専属チームに対して月額で対価を払う業務委託(準委任)の一形態です。契約の仕組みと向き不向きは「ラボ型開発」の記事で整理しています。
当社もラボ型開発を提供しており、たとえば日本人PM+エンジニア2〜3人月の最小構成で月額約80万円〜が目安です。
EORとの違いは「人財が誰に帰属するか」と「体制の柔軟性」にあります。
- EOR:人財は実質的に自社のメンバー。帰属意識とノウハウの蓄積を重視する場合に向く。交代や増減には採用・雇用終了の手続きを伴う
- ラボ型開発:人財は開発会社に帰属。体制の増減・交代の柔軟性と、開発成果を重視する場合に向く。メンバー交代は開発会社の判断で起こりうる
どちらが優れているかではなく、目的で選ぶものです。
当社では、ラボ型で稼働中のメンバーを企業様のご希望でEORに切り替えるご相談にも対応しています。
目的が定まったら、次に気になるのは「では費用はどう違うのか」ではないでしょうか。
EORの費用——給与・法定費用・手数料の内訳と相場

「結局、月にいくらかかるのか」——EORの検討で最も多い質問です。
多くのEOR事業者は料金を個別見積もりとしており、相見積もりを取って初めて相場感がつかめる、というのが実情です。
この章では費用の内訳を3層に分解し、手数料の一般的な相場と、ベトナムのエンジニアを1名雇う場合の月額例を示します。
費用の内訳は給与・法定費用・手数料
EORの費用は「本人給与+現地の法定費用+EOR手数料」で決まります。
見積書で確認すべき構成要素は、主に次の3つです。
- 本人給与:従業員に支払う月額給与。職種・経験年数・日本語力で決まる
- 現地の法定費用:雇用主が負担する社会保険・医療保険・失業保険など。ベトナムでは給与の21.5%(社会保険17.5%[うち労災0.5%]・健康保険3%・失業保険1%。ジェトロ「外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用(ベトナム)」2025年9月12日更新)
- EOR手数料:雇用契約・給与計算・労務管理の代行に対する対価。月額固定型と給与比率型がある
この3層が1つの金額に丸められていると、どこにいくら払っているのかが分かりません。
当社が単価の透明性にこだわるのは、人材紹介の仕事を通じて、不透明な見積もりが中間マージンの温床になる構造を見てきたためです。
内訳の開示を渋る事業者は、手数料が厚い可能性があります。
手数料の型と公開料金——月額固定型と給与比率型
EOR手数料には、従業員1名あたり月額いくらの「月額固定型」と、本人給与の一定率を取る「給与比率型」があります。金額を公開しているのは月額固定型の大手が中心で、給与比率型の比率は公開されていないことがほとんどです。
手数料の型 | 公開状況 | 向くケース |
|---|---|---|
月額固定型 | 大手は1名あたり月額の金額を公開している | 給与水準が高い人財。総額の予測が立てやすい |
給与比率型 | 比率は非公開で、個別見積もりが中心 | 給与水準が低い人財や短期。人数が増えると割高になりやすい |

各社が公式サイトで公開している料金は、2026年9月21日時点でDeelが1名あたり月額599USD、RemoteとOysterが699USD、最安級のRemoFirstが199USD〜です。
ただし手数料が安くても、採用支援が含まれない、日本語対応がない、為替手数料が別途かかる、といった差があります。
手数料の数字だけで比較するのは失敗のもとです。
ベトナムのエンジニアを1名雇う場合の月額例
たとえば、実務3年程度のベトナム人エンジニアを1名、EORで雇用する場合の月額を試算すると次の通りです。
項目 | 月額の目安 |
|---|---|
本人給与(実務3年目安) | 約1,500USD(約22.5万円) |
雇用主負担の法定費用(給与の約21.5%) | 約320USD(約4.8万円) |
EOR手数料(各社の公開料金) | 約199〜699USD(約3〜10.5万円) |
合計 | 約2,020〜2,520USD(約30〜38万円) |
※給与は当社公開の単価表に基づく目安、法定費用は2026年度時点の料率(労働組合経費2%は別途)、手数料は各社が公式サイトで公開している料金(2026年9月21日確認)の幅です。円表記は1USD=150円での換算目安で、為替・体制・スキルにより変動します。料金を公開していない事業者はこの幅の外に出ることがあります。
国内でエンジニアを1名採用する場合、人材紹介会社を使えば理論年収に対する一定割合の成功報酬が初期費用として発生し、それに月々の人件費が加わります。
ベトナムでは、日本語で意思疎通できる人財でも、この水準で自社メンバーとして雇用できるのが実態です。
自社の要件でいくらになるかは、候補者の給与水準を仮置きして概算するのが最も早く正確です。
EOR導入の流れ——要件整理から稼働まで

「決めたら、どれくらいで稼働できるのか」——役員や上司に説明する立場の方なら、期間の目安は欠かせない情報です。
EOR導入は大きく5つのステップで進みます。候補者が決まっていれば、現地法人の設立手続きを踏まずに稼働を始められます。
期間を左右するのは、採用の段階です。
導入の5ステップと所要期間
- 要件整理(1週間程度):職種・スキル・日本語力・想定給与・稼働開始時期を決める。ラボ型からの切り替えなら、対象メンバーと条件を確認する
- 候補者の採用(2週間〜2か月):自社で探すか、EOR事業者の採用支援を使う。期間の差が最も出る段階
- 条件合意とEOR契約(1〜2週間):給与・手当・休暇・試用期間を決め、依頼企業とEOR事業者がサービス契約を結ぶ
- 現地法に準拠した雇用契約(1週間程度):EOR事業者が従業員と雇用契約を締結し、社会保険などの加入手続きを行う
- 稼働開始と運用:業務指示・評価は依頼企業、給与・労務はEOR事業者が担う。毎月の請求は「給与+法定費用+手数料」

※所要期間は一般的な目安で、候補者の退職交渉(前職の予告期間)により前後します。
ベトナムでは労働法35条により、労働者が一方的に契約を終了させる場合でも有期(12〜36か月)で30日前、無期なら45日前の予告が必要です。そのため、在職中の候補者は退職までに1か月半前後かかるのが実態です。
稼働までを短縮する条件
短縮の鍵は採用段階にあります。
次の条件がそろうほど、稼働までの期間は短くなります。
- 候補者がすでに決まっている(ラボ型・フリーランスからの切り替えなど)
- EOR事業者が自前の人材データベースを持ち、要件に合う候補者を数日で提示できる
- 給与・手当の条件が相場に沿っていて、条件交渉が長引かない
たとえば当社の場合、グループの人材紹介事業が持つ2,000名以上のIT人財データベースから候補者を提示するため、採用段階を大きく短縮できます。
2018年からホーチミンで採用の現場に立ってきましたが、ベトナムの優秀なエンジニアは数日で他社に決まることも珍しくありません。EOR以外の採用ルートも含めて比べたい場合は、「外国人エンジニア 採用」の記事で3つの方法を比較しています。
速さは武器ですが、速さだけで決めるのは失敗のもとです——次の章で、契約前に押さえるべき注意点を整理します。
EORの注意点——ベトナム労働法と指揮命令の実務

「知らないうちに違法になっていたら、会社の信用に関わる」——慎重な経営者ほど強く持つ不安です。
EORを使っても、従業員には現地の労働法がそのまま適用されます。
手続きはEOR事業者が代行しますが、雇用条件の設計や雇用終了の判断は依頼企業に帰属するため、基本的な規定を知らないと運用で行き詰まります。
ここではベトナムの労働法、社会保険と税務、指揮命令の3点を、2026年度時点の規定で整理します。
試用期間・有期契約・解雇予告の規定(2026年度時点)
ベトナムの労働法(2019年労働法・法律番号45/2019/QH14)のうち、EORの運用に直結する規定は次の通りです。条文はジェトロが公開している日本語仮訳で確認しています(2026-09-21確認)。
項目 | 規定(2026年度時点) |
|---|---|
試用期間(25条・26条) | 企業法上の管理者は180日、短期大学卒以上の専門・技術水準を要する職位は60日、中級の専門・技術水準を要する職位と技術ワーカーは30日、その他の業務は6営業日。一つの業務に対し一回のみ設定でき、試用期間中の賃金はその業務に対する賃金額の85%以上 |
有期労働契約(20条) | 1回の契約期間は36か月以下。新たに締結する有期契約は一回に限りとされ、その後は無期労働契約を締結しなければならない。期間満了日から30日を経過しても新契約を締結しない場合も無期契約になる |
一方的な契約解除の予告(35条・36条) | 無期契約は45日前、12か月以上36か月以下の有期契約は30日前、12か月未満の有期契約は3営業日前 |
残業の上限(107条) | 1日あたり通常労働時間の50%以内、1か月40時間以内、1年200時間以内。107条3項に定める業種・職種等は1年300時間まで |

実務上は、新たに締結できる有期契約が一回に限りという点を見落としやすいです。なお、ここで挙げた条文と数値は公開情報を整理した一般的な解説であり、法的助言ではありません。実際の契約書・就業規則・雇用終了の判断は、現地の弁護士や社会保険労務士に確認したうえで進めてください。
「まず1年契約、次も1年」と更新すると、3年目には無期契約となり、雇用終了のハードルが上がります。
EOR事業者に手続きを任せる場合でも、契約期間の設計は依頼企業が理解したうえで決める必要があります。
社会保険料とPE課税の考え方
雇用主が負担する法定費用は、給与の21.5%(社会保険17.5%[うち労災0.5%]・健康保険3%・失業保険1%)です。料率はジェトロ「外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用(ベトナム)」(最終更新2025年9月12日、2026-09-21確認)によります。12か月以上の契約で就労する外国人にも同じ料率が適用されます。
これに加えて、労働組合経費として給与の2%の納付義務があり、企業内に労働組合がなくても納付が必要です。
見積もりの「法定費用」にこれらが含まれているかは、契約前に確認する項目です。
税務面ではPE(恒久的施設)の考え方に注意します。
PEとは、海外に事業の拠点があるとみなされて現地で課税される状態を指し、EORは法人を持たないことでこのリスクを下げる効果があるとされています。
ただし、雇用した従業員に現地での契約締結権限を持たせると、EORを使っていてもPEと認定されうるため、開発やバックオフィスなど契約主体が日本本社で完結する業務に限るのが一般的です。
私は税務の専門家ではありませんので、具体的な判断は税理士や現地の専門家に確認してください。
指揮命令の範囲と契約で決めておくこと
EORでは「業務指示は依頼企業、雇用主はEOR事業者」という二重構造になるため、境界を契約で明文化しておくと運用が安定します。
契約前に決めておきたい項目は次の通りです。
- 業務指示の範囲:業務内容・勤務時間・評価は依頼企業が行うことを明記する
- 雇用条件の変更手続き:昇給・異動・契約更新はEOR事業者を通じて行い、誰が最終判断するかを決める
- 雇用終了時の流れと費用:予告期間・退職手当・解雇の要件と、その費用負担
- 知的財産と秘密保持:成果物の帰属と機密情報の扱いを雇用契約に含める
- 手数料以外の費用:為替手数料、初期費用、退職時の精算
ホーチミンで採用の現場に立ってきた経験で言えば、トラブルの多くは「言った・言わない」ではなく、境界を決めていなかったことから生じます。
これらの項目に明確に答えられない事業者は要注意です。
EOR事業者の選び方——問い合わせ前のチェックリスト

「どこに頼めばよいのか」——仕組みと費用が分かると、次は事業者選びです。
EOR事業者は、多国対応のグローバル型と、国・職種に特化した型に大別され、それぞれ強みが異なります。
ここでは問い合わせ前に確認すべき項目と、法人設立へ切り替える目安をまとめます。
確認すべき項目
問い合わせの際は、次の5項目を確認してください。
- 対応国と雇用の形態:対象国で事業者の自社法人が雇用するのか、現地パートナー経由か
- 料金の透明性:給与・法定費用・手数料が分けて提示されるか。為替手数料や初期費用の有無
- 採用支援の有無:候補者探しまで含むか、雇用手続きだけか。人材データベースの規模
- 日本語での対応:契約書・請求・労務相談を日本語で行えるか
- 切り替え条件:法人設立時に従業員を自社法人へ移せるか、その際の費用

グローバル型は各社が90〜185か国規模の対応国を掲げる一方、採用支援は含まれないのが一般的です。
ベトナムのエンジニアを自社メンバーにしたい場合は、採用支援と日本語対応を持つ国・職種特化型のほうが実務上は選びやすい、というのが当社の見方です。
EORから法人設立へ切り替える目安
EORは万能ではなく、規模と期間によっては法人設立のほうが合理的になります。
一般的な目安は次の通りです。
- 同一国で10名前後を超え、数年以上の継続雇用が見込まれる
- 現地で売上を計上する、または現地顧客と直接契約する必要が出てきた
- 手数料の累計が、法人の設立・維持コストを上回る見込みになった
逆に言えば、そこに至るまでの期間はEORで試す価値があります。
まずは現在の体制と要件をお聞かせください。
EORとラボ型のどちらが合うか、月額いくらになるかを概算でお答えします。
【FAQ】EOR(雇用代行)に関するよくある質問

EORの検討で当社がよくいただく質問に、結論から回答します。
個別の状況により異なる点は、無料相談で具体的にお答えしています。
EORと人材派遣は何が違いますか?
法律上の雇用主と根拠法が異なります。
日本の人材派遣は派遣会社が雇用主となり国内の労働者派遣法に基づきますが、EORは海外現地のEOR事業者が現地法に基づいて雇用します。
業務指示を自社が行う点は似ていますが、許可制度も雇用関係も別物です。
日本本社から直接業務指示をしてもよいですか?
はい、日々の業務指示・勤怠管理・評価は依頼企業が行うのがEORの前提です。
ただし、給与改定・契約更新・雇用終了などの雇用条件に関わる事項は、EOR事業者を通じて現地法の手続きに従います。
1名だけでも利用できますか?
一般的に1名から利用できます。
むしろ1〜3名のスモールスタートは、EORが最も向く規模です。
人数が10名前後を超えて長期化する見込みなら、法人設立との比較を始める目安になります。
ラボ型開発で稼働中のメンバーをEORに切り替えられますか?
開発会社との契約条件によりますが、可能なケースが多いです。
当社では、ラボ型で稼働中のメンバーを企業様のご希望でEORに切り替えるご相談に対応しています。
切り替え時は、雇用条件と試用期間の扱いを事前に確認します。
どの国でも利用できますか?
事業者の対応国によります。
グローバル型は各社が90〜185か国規模の対応国を掲げていますが、国ごとに雇用形態(自社法人かパートナー経由か)が異なります。
ベトナムに関しては、現地に自社法人と人材データベースを持つ事業者が確実な選択肢。
まとめ: EORは「法人は持たず、人財は自社で持つ」ための仕組み
EOR(雇用代行)は、現地法人を設立せずに海外の人材を自社のメンバーとして雇用できる仕組みです。
この記事の要点は次の3つです。
- 仕組み:EOR事業者が法律上の雇用主となり、雇用契約・給与・社会保険・労務を代行する。業務指示と評価は依頼企業が行う
- 費用:「本人給与+現地の法定費用+EOR手数料」の3層構造。手数料は大手が1名あたり月額199〜699USDを公開しているが、給与比率型や個別見積もりの事業者もあるため、内訳を分けて確認する
- 使い分け:帰属意識とノウハウ蓄積を重視するならEOR、体制の増減や交代の柔軟性を重視するならラボ型開発。現地で売上を計上する段階になれば法人設立を検討する
ベトナムの労働法や社会保険は2026年度時点の規定を前提に設計し、指揮命令の境界は契約で明文化しておくと運用が安定します。
自社の要件でいくらになるか、EORとラボ型のどちらが合うかは、体制を仮組みして概算するのが最も早く正確です。
現在の体制と要件をお聞かせください。同等品質でどこまで下げられるか、概算見積もりでお答えします。