「作り方の手順はどの記事にも書いてあるが、肝心の軸をどう選べばいいのかがわからない」——ポジショニングマップを作ろうとしている方から、こうした声をよく聞きます。手順を読んでも手が動かない。とりあえず縦軸に価格、横軸に品質を置いてみたら、競合5社がきれいに右上がりの一直線に並んでしまった。そこから先に進めない、という状態です。
結論から言うと、ポジショニングマップの出来は、作図の手順ではなく2本の軸を何にするかで決まります。軸が決まればプロットは機械的な作業です。そして軸には満たすべき条件が3つあります。顧客が買うときに気にしている要素であること、競合との差が出ること、2本が互いに相関しないことの3つです。価格と品質が一直線になるのは、この3つ目を外しているからです。
マップは市場を写した客観的な地図ではありません。自分が選んだ2軸で市場を切った断面図です。だから軸の選定を間違えると、誰も見ていない世界を精密に描いた図ができあがります。逆に軸さえ正しく選べば、その1枚から自社の名乗り方、価格帯、作らない機能まで決まります。
本記事では、ポジショニングマップの定義と作る目的、軸の選び方の3条件とやってはいけない軸の5類型、作り方の6ステップと競合の調べ方、実際に軸を選んで1枚作る通しの例、作った後に決めること、そしてよくある質問の順に解説します。中心に置いたのは軸の選び方です。ここに最も紙幅を割きました。
私は人材業界の出身で、2018年からホーチミンで開発体制づくりに携わり、約100社の相談に乗ってきました。新規事業の構想段階からご相談いただくことも多く、そのときによく目にするのが、自社の技術的な優位性をそのまま軸にしたマップです。顧客がその項目を知らなければ、その図は社内でしか通じません。読み終えるころには、自社の商材で軸を2本選び、1枚作り切れる状態になっているはずです。
目次
- ポジショニングマップとは
- 定義: 選んだ2軸で市場を切った断面図。市場そのものの地図ではない
- 作る目的は2つ
- 概念の出どころ
- 軸の選び方が結果のすべてを決める
- 軸が満たすべき3条件(顧客が気にする・競合と差が出る・互いに相関しない)
- 相関する2軸を選ぶと何が起きるか
- やってはいけない軸の5類型(表)と、代わりに取る軸
- 軸の候補はKBF(購買決定要因)から洗い出す
- ポジショニングマップの作り方
- 手順の全体像
- 競合は「同業」ではなく「顧客が実際に比べた相手」
- 競合の調査方法
- プロットの実務
- 通しの例——中小企業向け勤怠管理SaaSで、軸を選んで1枚作る
- 前提: 誰の地図か、競合は誰か
- KBFを12個出し、3条件でふるいにかける
- 決まった2軸でプロットし、読み取れたこと
- このマップから決めた3つ
- マップを作った後に何を決めるか
- 作った後に決めること4つ
- 空白地帯は狙い目とは限らない
- 作っても使われないマップの3つの型
- 2軸で足りない場合の扱い
- 立ち位置が決まったら「作る」段階へ
- 決めた立ち位置は、作って顧客に当てて初めて検証できる
- 当社のラボ型開発
- 【FAQ】ポジショニングマップの作り方に関するよくある質問
- Q1. 軸の候補がまったく思いつきません。どうすればよいですか
- Q2. BtoBでもポジショニングマップは使えますか
- Q3. マップには何社プロットすればよいですか
- Q4. 空白地帯を見つけたら、そこを狙うべきですか
- Q5. エクセルやパワポで作っても問題ありませんか
- まとめ: ポジショニングマップは軸で決まる
ポジショニングマップとは——2軸で立ち位置を可視化する図と、何を決めるために作るのか

ポジショニングマップとは、縦軸と横軸の2本の軸を置き、その座標平面上に自社と競合の商品・サービスを配置した図のことです。企画書や事業計画書で1枚だけ見かける、あの散布図のような図です。作り方の説明に入る前に、この図が何を写しているのかを正確にしておきます。ここを取り違えると、後の作業が全部ずれます。
定義: 選んだ2軸で市場を切った断面図。市場そのものの地図ではない
ポジショニングマップは、市場を上空から撮影した航空写真ではありません。自分で選んだ2つの物差しで市場を切った、断面図です。
同じ市場でも、軸を変えれば断面はまったく別の形になります。価格と機能数で切ったときに団子状に固まって見える5社が、導入までの期間とサポートの手厚さで切ると4つに分かれる、ということが普通に起きます。どちらの図も間違いではありません。ただし、顧客が実際に使っていない物差しで切った断面には、意思決定に使える情報がありません。
この記事で「軸の選び方がすべてを決める」と繰り返すのは、この構造のためです。マップの精度は作図の丁寧さではなく、断面をどこで取ったかで決まります。
作る目的は2つ——自社の立ち位置を決めることと、伝える言葉を決めること
ポジショニングマップを作る目的は、次の2つに整理できます。
目的 | 決まること | 使う場面 |
|---|---|---|
自社の立ち位置を決める | 誰と競合し、誰と競合しないか。どの方向に商品を寄せ、どの方向は捨てるか | 商品企画、価格設定、機能の優先順位づけ、投資判断 |
伝える言葉を決める | 顧客に一言で何と名乗るか。広告・営業資料・サイトのファーストビューに置く一文 | コピー作成、営業トーク、採用広報 |
多くの記事が挙げる「差別化ポイントが見つかる」「空白地帯が見つかる」は、この2つの目的の副産物です。図を作ること自体は目的になりません。マップを作った後に何も決まっていないなら、その作業はやらなかったのと同じです。
なお、中小企業基盤整備機構が運営するJ-Net21でも、商品開発の第1ステップとして「機能と価格」「ユーザーの年齢と商品満足度」などの指標でポジショニングマップを作り、競合品との相対関係を明らかにすることが紹介されています(2026年9月16日確認)。公的機関の商品開発の手引きでも、位置づけは「相対関係の可視化」です。
概念の出どころ——Ries/Troutのポジショニングと、Kotlerの教科書が並べたSTP
「ポジショニングはSTP分析の一部」という説明をよく見かけます。これは運用上は正しいのですが、出どころをたどると少し事情が違います。確認できた一次情報を並べます。
年 | 出来事 | 出典(2026年9月16日確認) |
|---|---|---|
1956年 | Wendell R. Smith が市場細分化(market segmentation)を提唱。Journal of Marketing 21(1), pp.3-8 | Crossref DOI: 10.1177/002224295602100102 |
1972年 | Al Ries と Jack Trout が Advertising Age に3回連載「The Positioning Era Cometh」を発表 | Al Ries 公式サイト https://www.alries.com/positioning |
1981年 | 両氏が書籍 Positioning: The Battle for Your Mind を刊行。全世界400万部以上、22言語に翻訳 | 同上 |
2009年 | Kotler & Keller, Marketing Management 13th ed.(Pearson Prentice Hall, ISBN 9780136010128)に "Identifying market segments and targets" と "Crafting the brand positioning" の章 | Internet Archive 書誌 https://archive.org/details/marketingmanagem0013kotl |
つまり、市場細分化とポジショニングはもともと別の場所で生まれた別の概念で、それをセグメンテーション→ターゲティング→ポジショニングという一続きの流れとして教科書に据えたのがKotlerの系譜、という順序です。実務では「STPの3番目」と覚えて差し支えありませんが、原典を引くときは分けて示すのが正確です。
そしてRiesとTroutが一貫して言っているのは、位置を占める場所は自社の中ではなく見込み客の頭の中だという点です。自社の強みの一覧から軸を取ってはいけない理由は、50年前にすでに書かれていました。次章で、その原則を軸の選び方に落とし込みます。
軸の選び方が結果のすべてを決める——顧客の購買決定要因から取る3条件と、やってはいけない軸

ここが本記事の中心です。ポジショニングマップの作業時間の配分を仮に10とすると、軸の選定に9、プロットに1で構いません。軸が決まればプロットは機械的な作業ですが、軸を間違えた図はどれだけ丁寧にプロットしても使えません。順に、軸が満たすべき3条件、相関する2軸で何が起きるか、やってはいけない軸の5類型、候補の出し方の順で見ていきます。
軸が満たすべき3条件(顧客が気にする・競合と差が出る・互いに相関しない)
軸の候補は、次の3条件を全部満たすものだけを採用します。1つでも欠けたら落とします。
条件 | 内容 | 満たさないと何が起きるか |
|---|---|---|
1. 顧客の購買決定要因であること | その要素を、顧客が買うかどうかを決めるときに実際に比べている | 社内でしか通じない図になる。役員会で「それは誰が気にしているのか」と聞かれて答えられない |
2. 競合との差が出ること | 各社の評価がばらつく。全社が同じ評価になる要素は軸にならない | 全社が1点に集まり、位置の違いが読み取れない |
3. 2本が互いに相関しないこと | 一方が上がればもう一方も上がる、という関係になっていない | 分布が対角線上の直線に潰れ、実質1軸の図になる |
条件1で使う「購買決定要因」は、マーケティングの実務ではKBF(Key Buying Factor)と呼ばれます。顧客が購入を決めるときの決め手になる要素のことです。軸はKBFの中から選ぶ、と覚えてください。自社の強みの一覧から選ぶのではありません。
この違いは決定的です。自社の強みは提供側の言葉で書かれています。KBFは顧客の言葉で書かれています。前章で触れたとおり、ポジショニングの原典が「位置を占めるのは見込み客の頭の中」と述べているのは、まさにこの区別のことです。
相関する2軸を選ぶと何が起きるか——価格×品質で全社が対角線に並ぶ理由
最もよく見る失敗が、縦軸に価格、横軸に品質を置く組み合わせです。一見すると両方ともKBFで、条件1と条件2は満たしています。ところが作ってみると、各社が左下から右上へ一直線に並びます。
理由は単純で、市場では高品質なものは高く、低品質なものは安いからです。価格と品質には強い相関があり、相関する2つを直交する2軸として置くと、点は対角線上にしか現れません。座標平面を使っているのに、得られる情報は「安い順・高い順」という1本の順位表と変わりません。左上(安くて高品質)と右下(高くて低品質)が空くのは当然で、そこが空白地帯に見えても、前者は経済的に成り立たず、後者は誰も買わないだけです。
同じ理屈の組み合わせは他にもあります。機能の多さと価格、企業規模と実績数、開発期間と費用。いずれも一方が決まればもう一方がほぼ決まる関係です。作る前に「この2つ、片方がわかればもう片方も見当がつくか」と自問してください。見当がついてしまうなら、その組み合わせは使えません。
やってはいけない軸の5類型(表)と、代わりに取る軸
実際の相談で見かける「使えない軸」は、5つに分類できます。
類型 | 具体例 | なぜ使えないか | 代わりに取る軸 |
|---|---|---|---|
1. 相関する2軸 | 価格×品質、価格×機能数、規模×実績数 | 分布が対角線に潰れ、実質1軸になる | 片方を残し、もう片方を相関しないKBFに差し替える(価格×導入までの期間など) |
2. 提供側の内部都合 | 開発工数の大きさ、自社の得意領域、技術的な先進性 | 顧客はその項目を見ていない。社内向けの図になる | その内部都合が顧客にとって何になるかに翻訳する(先進性→対応できる業務範囲の広さ) |
3. 顧客が知らない属性 | 独自アルゴリズムの有無、自社特許の本数、採用している技術スタック | 知らないものは購買の決め手になりようがない | 顧客が結果として体感する指標に置き換える(精度の高さ、処理の速さ) |
4. 測れない形容詞だけの軸 | おしゃれ、使いやすい、信頼できる | 各社の位置を決める根拠がなく、作り手の印象で点が動く | 何をもってそう言えるかの代理指標に分解する(使いやすい→初期設定にかかる時間) |
5. 自社が右上に来るよう逆算した軸 | 自社だけが持つ組み合わせをそのまま2軸にする | 自社が必ず勝つ図になり、社内でも社外でも見抜かれる | 先にKBFを全部出し、そこから機械的に2本を選ぶ。結果として自社が不利な位置に来ることも受け入れる |

類型5は、態度の問題に見えて実は手順の問題です。軸の候補を思いつきで出すから、無意識に自社が有利な組み合わせに寄ります。KBFを先にひととおり洗い出し、そこから3条件でふるいにかける順番を守れば、逆算は起こりにくくなります。当社は業界慣行に反して開発単価を公開していますが、それも同じ考え方で、都合の悪い数字を隠した資料は結局信用されないためです。
軸の候補はKBF(購買決定要因)から洗い出す——一次情報の集め方
では、KBFはどこから持ってくるのか。順番に挙げます。上にあるものほど信頼できます。
- 失注・受注の理由: 「なぜ他社に決めたか」「なぜうちに決めたか」。営業記録に残っていれば最良の材料です
- 顧客への直接の質問: 「他に何を検討しましたか」「最後まで迷った相手はどこですか」「決め手は何でしたか」の3問。既存顧客10社に聞けば、KBFはだいたい出そろいます
- 問い合わせ・商談で必ず聞かれる質問: 顧客が気にしている点が、そのまま質問の形で現れています
- レビュー・口コミの言葉: 星の数ではなく、本文で何について語られているかを見ます
- 競合の訴求文言: 各社が自社サイトの見出しで何を主張しているか。市場で「比べられる項目」の候補になります
私は人材業界の出身で、人材紹介では企業側と候補者側の双方の判断軸を扱ってきました。そこで繰り返し実感したのは、提供側が思っている決め手と、選ぶ側の実際の決め手はずれるということです。企業が「技術力で選ばれている」と信じていて、候補者は「面接官の対応の速さ」で決めていた、ということが普通に起きます。
出てきたKBFは、まず一本のリストにまとめます。この段階では優先順位をつけず、重複も気にしません。そのうえで3条件のふるいにかけ、2本まで絞ります。ここまで来ても2本に決めきれない場合は、後述するとおりマップを複数枚に分けるのが正解です。無理に1枚へ押し込むのは失敗のもとです。
軸選びで押さえるべきことは、結局ひとつに集約されます。軸は自社の中ではなく、顧客の頭の中から取る。この一点を外さなければ、多少荒い図でも意思決定には使えます。
ポジショニングマップの作り方——6ステップと、競合の置き方・調査方法

軸の考え方が固まったら、手順に落とします。ポジショニングマップの作り方は6ステップです。注意していただきたいのは、軸を決めるのが5番目だという点です。誰の地図なのか、誰と比べるのかが決まっていないと、そもそもKBFが定まりません。順番を飛ばすと、後から軸をやり直すことになります。
手順の全体像——6ステップ
ステップ | やること | 完了の目安 |
|---|---|---|
1 | 誰の地図かを決める(ターゲットの確定) | 「どの層の、どんな場面での購買か」が1文で書ける |
2 | KBFを洗い出す | 顧客の言葉で書かれた候補リストができている |
3 | 競合を5〜8社選ぶ | 「顧客が実際に比べた相手」の名前が挙がっている |
4 | 各社をKBFごとに評価する(比較表) | 表のマス目が根拠付きで埋まっている |
5 | 3条件を満たす2軸を決める | 落とした軸について、なぜ落としたかを言える |
6 | プロットし、読み取った内容を検証する | 空白地帯の「空いている理由」に説明がついている |
ステップ1で言う「誰の地図か」は重要です。同じ市場でも、初めて導入する層と、他社から乗り換える層ではKBFが違います。前者は導入の手間と失敗のリスクを気にし、後者は移行コストと現行の不満の解消を気にします。両方を1枚のマップに載せると、どちらの読者にも合わない軸になります。まず1つの層に絞ってください。
ステップ4の比較表は、成果物としてはマップより重要です。マップは表から2列を抜き出した図にすぎず、表があれば軸を差し替えて何枚でも作り直せます。3C分析やSWOT分析をすでに作っているなら、その競合欄の情報をここに流用できます。
競合は「同業」ではなく「顧客が実際に比べた相手」——置く相手の決め方
競合の選定でつまずく人が多いので、原則を1つだけ挙げます。競合とは、顧客があなたの代わりに選びうる選択肢のことです。 同じ業界に属しているかどうかは関係ありません。
具体的には、次の4つを候補にします。
- 直接競合: 同じカテゴリーの商品・サービス。ほとんどの人がここだけを見ています
- 代替手段: カテゴリーは違うが同じ用途を満たすもの。勤怠管理SaaSに対するExcelとタイムカード、動画編集の外注に対する社内の担当者
- 何もしない: 現状維持。BtoBの新規事業では、最大の競合がこれであることが珍しくありません
- 内製: 自分たちで作るという選択肢
「何もしない」と「内製」をマップに置けるかは軸によります。置けない場合でも、比較表の行としては必ず残してください。この2つが顧客の頭にある限り、それを無視した図は現実とずれます。
私は人材紹介の仕事を長くしてきましたが、人材紹介会社の競合は他の人材紹介会社だけではありませんでした。求人媒体、リファラル、そして「採用をやめて外注する」という選択肢まで含めて、企業は比べています。業界の内側から見た競合の一覧は、たいてい狭すぎます。
競合の調査方法——公開情報でどこまでわかるか、聞き取りで何を埋めるか
競合の評価は、公開情報と聞き取りの2段構えで埋めます。
情報源 | わかること | 注意点 |
|---|---|---|
公式サイトの料金ページ | 価格帯、料金体系、最低契約期間 | 「要問い合わせ」の会社は帯でしか置けない。推測で数字を置かない |
公式サイトのサービス説明・導入事例 | 想定顧客、提供範囲、導入までの期間 | 事例は成功例が選ばれている。平均ではない |
利用規約・約款・仕様書 | サポート範囲、SLA、制約条件 | 実務上の条件はここに書かれていることが多い |
上場企業のIR資料(決算説明資料・有価証券報告書) | セグメント別の売上、顧客数、戦略の方向 | 未上場企業では使えない |
求人票 | 組織の力の入れどころ、技術スタック、拠点 | 間接的な情報。補助的に使う |
顧客への聞き取り | 実際に比べた相手、決め手、乗り換えなかった理由 | 最も価値が高い。3問で足ります |
ここで一つ、原則を申し上げます。その企業自身が公開していない情報は、マップに置かないでください。 「たぶんこのくらいの価格だろう」で置いた点は、社内で一度でも事実と違うと指摘されれば、図全体の信頼が失われます。確認できないマス目は「不明」と書いたまま進めてください。不明が多すぎて軸が決められないなら、それは聞き取りが足りないという診断結果です。
まとめサイトや比較記事の数値をそのまま使うのも避けたほうが無難です。更新が止まっていることがあり、出典として社内で示せません。
プロットの実務——何社置くか、位置をどう決めるか、空白地帯の扱い
最後にプロットです。実務上の目安を挙げます。
- 置く数は自社を含めて5〜8: 10を超えると読み取れなくなります。多い場合は、ステップ1のターゲットをさらに絞ってください
- 位置は比較表のスコアから機械的に決める: KBFごとに5段階で評価しておき、その値をそのまま座標にします。目分量で動かし始めると、類型5(自社が右上に来るよう逆算した軸)に戻ります
- 円の大きさで3つ目の情報を足さない: 売上規模などをバブルで重ねると、読み手が情報を処理しきれません。別のマップにします
- 空白地帯を見つけたら、そこで止まる: 空いている理由を確かめる工程が要ります。これは次章で扱います
ここまでの6ステップを、チェックリストとして持っておいてください。「ターゲットは1つに絞ったか」「KBFは顧客の言葉で10個以上出たか」「競合に代替手段と何もしないを入れたか」「比較表のマス目に根拠があるか」「2軸は3条件を満たすか」「空白の理由を説明できるか」。この6問に全部答えられれば、そのマップは社内で使えます。
通しの例——中小企業向け勤怠管理SaaSで、軸を選んで1枚作る

手順だけでは手が動かないという声が多いので、1本通してみます。題材は「従業員30〜100名の中小企業向け勤怠管理SaaS」です。以下は手順を示すための架空の設定で、実在する特定企業の評価ではありません。実在企業を置く場合は、前章のとおり各社が自ら公開している情報だけを使ってください。
前提: 誰の地図か、競合は誰か
ステップ1の「誰の地図か」は次のように置きます。
従業員30〜100名、人事労務の専任者が1名以下、紙のタイムカードかExcelで運用してきた企業が、法改正対応をきっかけに初めて勤怠管理SaaSを導入する場面
ステップ3の競合は6つです。直接競合として大手SaaS 2社と同規模SaaS 2社、代替手段としてExcel運用、そして「何もしない(現行のタイムカードを続ける)」を入れます。自社を含めて7点になります。
導入経験のない層に絞ったので、乗り換え層が重視する「他システムからのデータ移行のしやすさ」はKBFから外れます。これがターゲットを先に絞る効果です。
KBFを12個出し、3条件でふるいにかける
ステップ2でKBFを12個出し、ステップ5で3条件にかけた結果が次の表です。
No | KBF候補 | 条件1 顧客が気にするか | 条件2 差が出るか | 条件3 相関しないか | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
1 | 月額料金 | ○ | ○ | 機能数と強く相関 | 保留 |
2 | 機能の多さ | △ この層は多機能を求めていない | ○ | 料金と相関 | 不採用 |
3 | 導入時の社内工数(初期設定・社員への周知) | ○ 専任者が1名以下のため最重視 | ○ 大手ほど設定項目が多い | ○ | 採用 |
4 | 法改正への追随の速さ | ○ 導入のきっかけそのもの | ○ 各社の更新頻度に差 | ○ | 採用 |
5 | 打刻の方法の多さ | △ | ○ | 機能数と相関 | 不採用 |
6 | サポートの応答の速さ | ○ | ○ | 料金と相関しがち | 保留 |
7 | 給与ソフトとの連携 | ○ | △ 主要ソフトはどこも対応済み | ○ | 不採用(差が出ない) |
8 | スマホ対応 | ○ | × 全社対応済み | — | 不採用(差が出ない) |
9 | 独自の打刻アルゴリズム | × 顧客が知らない | ○ | ○ | 不採用(類型3) |
10 | 画面の使いやすさ | ○ | 評価の根拠が作れない | — | 不採用(類型4) |
11 | 最低契約期間の短さ | ○ 初導入で失敗が怖い | ○ | ○ | 保留 |
12 | 自社の開発体制の厚さ | × 提供側の都合 | ○ | ○ | 不採用(類型2) |

採用したのは No.3「導入時の社内工数」と No.4「法改正への追随の速さ」です。この2つを選んだ理由は3つあります。第1に、専任者が1名以下という前提のもとでは導入工数が最大の障壁であること。第2に、法改正が検討のきっかけなので追随の速さが直接の決め手になること。第3に、この2つは互いに相関しません。設定が簡単なサービスが法改正に強いとは限らず、その逆もあるからです。
料金(No.1)を落としたのは、機能数との相関が強く、かつ月額料金は表の中で併記すれば足りるためです。軸に載らなかったKBFは、マップの横に置く比較表に残します。 捨てるわけではありません。
決まった2軸でプロットし、読み取れたこと
横軸に「導入時の社内工数」(右へ行くほど少ない)、縦軸に「法改正への追随の速さ」(上へ行くほど速い)を取り、7点を置くと、おおよそ次のように分かれます。
位置 | 該当 | 読み取れること |
|---|---|---|
右上(工数が少なく、追随が速い) | 空白 | ここが狙える位置かどうかを次章で検証する |
左上(工数は多いが、追随が速い) | 大手SaaS 2社 | 機能が多く設定項目も多い。法改正対応は速い |
右下(工数は少ないが、追随が遅い) | 同規模SaaS 2社、Excel運用 | 手軽だが法改正のたびに自力で対応が要る |
左下 | 何もしない(タイムカード) | 現状維持。ただし法改正で必ず問題になる |
この図から言えるのは、大手は「機能で守り」、小規模SaaSは「手軽さで守っている」が、その両方を同時に満たす位置は空いているということです。ただし、空いているからといってすぐに飛び込む判断はしません。その検証は次章で扱います。
このマップから決めた3つ
仮に右上を取りにいくと決めた場合、この1枚から次の3つが決まります。
- 名乗る言葉: 「設定は当日、法改正はこちらで追随する勤怠管理」。マップの2軸がそのまま一文になります
- 価格帯: 大手より安く、同規模SaaSよりは高い中間帯。軸に載せなかった料金は、ここで比較表から決めます
- 作らない機能: 多機能化は左方向(工数が増える)への移動を意味します。打刻方法の拡充やシフト最適化は、この立ち位置では作りません
軸を2本選ぶところから、名乗る言葉と作らない機能まで、一直線でつながりました。これがマップを作る意味です。逆に言えば、この3つが決まらなかったなら、軸の選定に戻るべきです。
マップを作った後に何を決めるか——使われないマップの3つの型と、2軸で足りない場合

図が完成した時点は、作業の終わりではなく判断の入り口です。ここから何を決めるか、空白地帯をどう扱うか、なぜ多くのマップが使われずに終わるのか、そして2軸で足りないときにどうするかを順に見ていきます。図が成果物になった時点で、その作業は失敗です。
作った後に決めること4つ
マップから決めるべきものは4つあります。前章の通しの例で3つ挙げましたが、実務では優先順位づけを加えた4つです。
決めること | 決め方 | 決まらないときの診断 |
|---|---|---|
名乗る言葉 | 2軸の方向をそのまま一文にする。サイトのファーストビューと営業の第一声に置く | 軸が顧客の言葉になっていない。KBFの洗い出しに戻る |
価格帯 | 軸に載せなかった料金を、比較表と立ち位置から決める | 競合の価格が「不明」のまま。調査が足りない |
機能・施策の優先順位 | 選んだ方向へ動かす施策を上位に、逆方向の施策を下位にする | 選んだ位置が曖昧。座標で言えるまで絞る |
やらないこと | 逆方向の施策を明文化して捨てる | 全部やると言っている。それは立ち位置を決めていないのと同じ |
4つ目の「やらないこと」が最も効きます。ポジショニングは何かを選ぶ行為であると同時に、何かを捨てる行為です。捨てるものが一つも出ないマップは、立ち位置を決めていません。
空白地帯は狙い目とは限らない——空いている理由を3つの可能性で確かめる
マップに空白があると、そこが狙い目に見えます。しかし、空いているのには理由があります。次の3つのどれなのかを確かめてください。
- まだ誰も気づいていない(本当の機会): 技術やコストの条件が最近変わって、初めて成立するようになった位置。この場合は狙う価値があります
- 需要がない: その組み合わせを欲しがる顧客がいない。安くて高品質という位置が空いて見えるのは、たいていこの理由か次の理由です
- 構造的に成立しない、または撤退の跡地: コスト構造上その価格では提供できない、規制で不可能、過去に複数社が挑戦して撤退した、のいずれか
見分け方は単純で、その位置を狙う商品が過去に存在したかを調べることです。撤退した会社があるなら、なぜ撤退したのかを公開情報で追います。存在した形跡がまったくないなら、次に「顧客はその組み合わせにお金を払うか」を直接聞きます。前章の例で言えば、「設定が当日で終わり、法改正もお任せできるなら、今より月いくら高くても使いますか」という質問です。ここを飛ばして飛び込むのは失敗のもとです。
作っても使われないマップの3つの型
相談を受けていて、作ったのに使われていないマップには共通の型があります。
型 | 症状 | 対処 |
|---|---|---|
一度きり型 | 企画書に貼って以降、誰も見ていない。ファイルの場所も忘れられている | 名乗る言葉とやらないことを別の文書(プロダクト方針・営業資料)に転記する。マップ自体は台帳ではなく途中の道具 |
恣意的型 | 自社が右上に来るように軸を選んでいる。社内で「そりゃそうなるよね」と言われて議論が止まる | KBFの一覧と、落とした軸の理由を必ず添付する。不利な位置も隠さない |
更新されない型 | 1年前の競合情報のまま。新規参入と値下げが反映されていない | 比較表を正とし、半年に一度スコアだけ更新する。マップは表から描き直す |
恣意的型は、当社が単価を公開しているのと同じ理屈で考えています。都合の悪い情報を伏せた資料は、伏せていること自体が伝わってしまい、かえって信用されません。自社が不利な軸で不利な位置に立っていると示した資料のほうが、社内の議論は前に進みます。
2軸で足りない場合の扱い——マップを分ける、比較表に戻す、多次元の手法
KBFを絞り込んでも2本に決めきれない場合があります。対処は3つです。
- マップを複数枚に分ける: 最も実務的です。「導入工数×法改正対応」と「価格×サポート応答」の2枚を並べる。1枚に押し込むより読み手に伝わります
- 比較表に戻す: そもそも軸が3つ以上で意味を持つなら、KBF比較表のほうが正確です。マップは「1枚で説明したいとき」の表現形式にすぎません
- 多次元尺度構成法(MDS)などの統計手法を使う: 複数の属性の類似度から布置図を作る手法が、マーケティングリサーチの領域には昔からあります。ただし調査データの設計と分析の体制が要るので、企画の現場では1と2で足ります
事業全体の構造(誰に、何を、どうやって届けて、どこで儲けるか)を整理したい場合は、ポジショニングマップの仕事ではありません。別のフレームワークに渡してください。マップの役目は、市場の中での立ち位置を1枚で示すところまでです。
決めた立ち位置を具体的な仕様に落とす段階に進むなら、「要件定義の進め方」の記事が役に立ちます。ここまでで、あなたのマップからは何が決まりましたか。名乗る言葉とやらないことが1文ずつ書けているなら、次は作る段階です。
立ち位置が決まったら「作る」段階へ——検証できる最小の形と、当社のラボ型開発

ポジショニングマップで決めた立ち位置は、あくまで仮説です。顧客が本当にその2軸で比べているのか、その位置にお金を払うのかは、実物を当ててみるまでわかりません。ここから先は開発の話になりますので、本記事では出口の道筋だけを示します。
決めた立ち位置は、作って顧客に当てて初めて検証できる
検証のために最初に作るものは、立ち位置を成立させる一点だけで構いません。前章の例で言えば、「設定が当日で終わる」ことを確かめたいなら、初期設定の画面だけを作って10社に触ってもらえば足ります。打刻機能一式は後回しです。必要最小限の形で市場に当てる考え方は「MVP開発」の記事で詳しく扱っていますので、進め方はそちらをご覧ください。
このとき効いてくるのが、軸ごと変わる可能性があるという前提です。検証の結果、顧客が本当に気にしていたのは導入工数ではなく「社労士と共有できるか」だった、ということが起こります。そうなればマップを描き直し、作るものも変わります。仕様を固めて一括で発注する形とは相性がよくありません。開発の委託先を比べる段階になったら「システム開発会社の選び方」、資金調達前後の体制設計なら「スタートアップの開発外注」の記事が参考になります。
当社のラボ型開発——仮説が動く前提の体制を1名から
当社TALENTBASE VIETNAMは、ベトナム・ホーチミンで日本企業向けのラボ型開発を提供しています。ラボ型開発は、専属チームを月額で確保し、優先順位を都度決めながら進める形態です。仕様が動く前提の検証フェーズとは相性がよく、当社では次のように運用しています。
- 体制: 日本人PM/ブリッジSE+エンジニアのパターンA(推奨)と、エンジニアのみのパターンB。1名から契約でき、最短2週間で開始、増員は約1週間、縮小・交代は1か月単位
- 費用: 公開単価で実務3年目安が1,500USD(約22.5万円)、5年で2,000USD、10年・ブリッジSEで3,000USD(1USD=150円換算目安)。最小構成は日本人PMフロント+2〜3人月で月額約80万円〜
- 事例: 介護記録SaaS「CareViewer」では日本語対応のブリッジSE1名+フルスタック2名の体制で、要件が動くSaaSを週次の優先順位判断で継続開発しています。金融系マッチングサービスでは、PM1名+フルスタック2名で構想段階から伴走しました
一方で、向かない案件もあります。仕様が完全に確定していて一度きりの納品で終わる案件は、ラボ型ではなく請負のほうが適しています。社内に優先順位を決める担当者を置けない場合も、月額の稼働だけが消化されるおそれがあるため、当社からは率直にその旨をお伝えしています。形態の違いは「ラボ型開発」の記事で整理しています。
立ち位置が決まっているなら、作るべきものの範囲はかなり絞れているはずです。その状態でご相談いただけると、体制も費用も具体的な数字でお返しできます。
【FAQ】ポジショニングマップの作り方に関するよくある質問

ポジショニングマップの作成でよく受ける質問を5つ挙げます。いずれも軸の選び方か、作った後の扱いに関わるものです。実際に手を動かす段階で詰まりやすい点を中心にまとめました。
Q1. 軸の候補がまったく思いつきません。どうすればよいですか
自分の頭から出そうとしているのが原因です。軸は発想するものではなく、顧客の言葉から拾うものです。まず既存顧客10社に「他に何を検討しましたか」「最後まで迷った相手はどこですか」「決め手は何でしたか」の3問を聞いてください。失注案件があるなら、失注理由の記録を見返すほうが早いこともあります。生成AIに候補を出させる使い方もありますが、AIが出せるのは一般論の一覧までで、自社の顧客が実際に何を見ているかは答えられません。候補出しの補助として使い、採否は一次情報で判断してください。
Q2. BtoBでもポジショニングマップは使えますか
使えます。むしろBtoBのほうが軸を作りやすい面があります。購買の決め手が担当者の好みではなく、稟議を通すための条件として言語化されているからです。導入までの期間、既存システムとの連携、サポートの契約形態、実績業種といったKBFは、稟議資料に必ず書かれています。ただしBtoBでは意思決定者が複数います。現場担当者と決裁者ではKBFが違うので、どちらの地図を作るのかを先に決めてください。
Q3. マップには何社プロットすればよいですか
自社を含めて5〜8が目安です。10を超えると点が重なって読み取れなくなります。多くなるのは、たいていターゲットの絞り込みが足りないからです。「初めて導入する層」と「他社から乗り換える層」を分ければ、それぞれの競合は減ります。加えて、直接競合だけでなく「代替手段」と「何もしない(現状維持)」を候補に入れてください。BtoBの新規事業では、最大の競合が現状維持であることが珍しくありません。
Q4. 空白地帯を見つけたら、そこを狙うべきですか
空白の理由を確かめてからにしてください。空いている理由は3つあります。まだ誰も気づいていない、需要がない、構造的に成立しない(または過去に撤退されている)、のどれかです。見分けるには、その位置を狙った商品が過去に存在したかを調べ、存在したなら撤退理由を公開情報で追います。形跡がないなら、顧客に直接「その組み合わせなら今より高くても使うか」を聞きます。とくに、価格と品質のように相関する2軸で作った図の空白は、ほぼ例外なく「成立しないから空いている」だけです。ここを検証せずに飛び込むのは要注意です。
Q5. エクセルやパワポで作っても問題ありませんか
問題ありません。散布図が描ければ道具は何でも構いません。むしろ、道具選びに時間をかけている状態は、軸が決まっていないことの裏返しであることが多いです。実務では、KBFの比較表をスプレッドシートで作り、そこから2列を選んで散布図にするのが最も速く、軸を差し替えた版も数分で作り直せます。マップは表から生成される途中の道具であって、保管すべき成果物は比較表と、そこから決めた名乗る言葉とやらないことの3点。
まとめ: ポジショニングマップは軸で決まる——顧客の購買決定要因から、相関しない2本を選ぶ
ポジショニングマップの作り方で押さえるべきことは、手順よりも軸の選定です。軸は自社の強みからではなく、顧客が買うときに比べている要素(KBF)から取り、「顧客が気にする」「競合と差が出る」「互いに相関しない」の3条件を満たす2本だけを採用します。価格と品質のように連動する2軸を選ぶと、各社は対角線に並び、座標平面を使いながら得られる情報は順位表と変わりません。やってはいけない軸は5類型あり、なかでも自社が右上に来るよう逆算した軸は、社内でも社外でも見抜かれます。
手順は6ステップです。誰の地図かを決め、KBFを洗い出し、競合を5〜8選び(代替手段と「何もしない」を必ず入れる)、比較表で評価し、3条件で2軸を決め、プロットして空白の理由を確かめる。作った後に決めるのは、名乗る言葉、価格帯、機能の優先順位、そしてやらないことの4つです。この4つが決まらないマップは、図が成果物になった状態であり、いずれ誰にも見られなくなります。空白地帯は「まだ気づかれていない」「需要がない」「構造的に成立しない」の3つの可能性を切り分けてから狙ってください。
ポジショニングという概念は、Al Ries と Jack Trout が1972年のAdvertising Age連載と1981年の書籍で示したもので、位置を占める場所は自社の中ではなく見込み客の頭の中だ、というのが核心です。そして決めた立ち位置は仮説にすぎません。実物を作って顧客に当てて初めて検証できます。必要最小限の形で市場に当てる進め方はMVP開発とはの記事に、仕様が動く前提でチームを確保する形態はラボ型開発とはの記事にまとめています。
現在の体制と要件をお聞かせいただければ、ベトナムオフショア開発で同等品質をどこまでの費用で実現できるか、概算見積もりでお答えします。合わない案件にはその旨も率直にお伝えします。