ビジネスモデルキャンバスとは?9つのブロックの意味と埋める順番、記入例1枚と埋めたあとにやること

2026.09.16|ノウハウ|文: 中元 亨

「ビジネスモデルキャンバスで整理して持ってきて、と言われたが、9つの枠の違いが分からない」——新規事業や社内の企画を立てている方から、こうした相談をよく受けます。顧客セグメントと価値提案までは書ける。けれども主要リソース・主要活動・パートナーの3つが同じ内容になってしまう。埋めたはいいが、それで何が分かったのかが自分でも説明できない。名前が有名なフレームワークほど、使い方が具体的に書かれていないのが実情です。

結論から言うと、ビジネスモデルキャンバスは事業を9つのブロックに分けて1枚に描く道具で、Alexander Osterwalder と Yves Pigneur が提唱しました。公式テンプレートは Strategyzer AG が Creative Commons 表示-継承 3.0 非移植ライセンスで公開しています(2026年9月16日に公式テンプレートで確認)。9つを均等に埋めようとすると詰まります。顧客セグメントと価値提案から右側を固め、左側の体制へ進み、最後に収益とコストを突き合わせる。この順番で書くと止まりません。

そしてもう1つ大事なのは、埋め終わった1枚は事業計画ではなく、仮説の一覧だということです。きれいに整理された思い込みのまま資料に貼ると、作り始めてから前提が崩れます。キャンバスの価値は、9つの欄を並べたときに見える「空欄」と「つながっていない欄」にあります。そこが、あなたの事業でまだ確かめられていない部分です。

本記事では、キャンバスの定義と出典・ライセンス、9つのブロックそれぞれの意味と書き方、埋める順番とブロック同士のつながりの読み方、1枚を通しで埋めた記入例とよくある失敗3つ、チームで使うワークショップの進行とリーンキャンバスとの使い分け、そして埋めたあとに何をするか、の順に解説します。9ブロックの一覧と記入例は、そのまま自分の事業に置き換えられる形にしました。

私は人材業界の出身で、2018年からホーチミンでベトナムオフショア開発の体制づくりに携わり、約100社の相談に乗ってきました。相談の初回に、こうした1枚絵を見せていただくことがよくあります。そのとき最初に見るのは、顧客セグメントと価値提案の2つです。この記事を読み終えるころには、自分の事業で1枚を埋め切り、次に何を確かめるべきかまで決められるはずです。

目次
  1. ビジネスモデルキャンバスとは
  2. 定義と出典——Osterwalder と Pigneur が提唱し、Strategyzer が公式テンプレートを配布している
  3. 公式テンプレートのライセンス
  4. 何に使う道具か
  5. 9つのブロックの意味と、それぞれ何を書けばいいのか
  6. 9ブロック一覧表(英語名・日本語名・答える問い・書く粒度)
  7. 右側の4ブロック
  8. 左側の3ブロック
  9. 下段の2ブロック
  10. 埋める順番——右から左へ、最後に数字の両端を突き合わせる
  11. 順番の一覧(9ステップ)と、各ステップの所要時間の目安
  12. なぜ顧客セグメントから始めるのか
  13. ブロック同士のつながりの読み方
  14. 記入例を1枚通しで
  15. 記入例(9ブロック全記入)
  16. 失敗1: 顧客セグメントが広すぎる
  17. 失敗2: 価値提案が機能の列挙になる
  18. 失敗3: コスト構造が空欄のまま
  19. チームで使う
  20. 半日ワークショップの進行(人数・時間配分・付箋・決め方)
  21. 進行役が止めるべき3つの場面
  22. リーンキャンバスとの違い
  23. 埋めたあとに何をするか
  24. 仮説に順位をつける
  25. 検証の形を選ぶ
  26. 作る段階の開発リソースをどう確保するか
  27. ビジネスモデルキャンバスに関するよくある質問
  28. Q1. 公式テンプレートは無料で使えますか?
  29. Q2. 埋められない欄があってもいいですか?
  30. Q3. 1人で作ってもいいですか?
  31. Q4. 事業計画書の代わりになりますか?
  32. Q5. 既存事業にも使えますか?
  33. まとめ: 9つのブロックを順番に埋め、つながりを確かめ、最も危ない仮説から試す

ビジネスモデルキャンバスとは——事業を9つのブロックに分けて1枚に描く道具

ビジネスモデルキャンバスの1枚を囲んで事業の全体像を確認する2人

ビジネスモデルキャンバスは、事業がどうやって価値を生み、届け、対価を得ているのかを9つのブロックに分解し、1枚の紙の上に並べるフレームワークです。企画書のように文章で説明するのではなく、要素を空間的に配置することで、要素同士の矛盾と、まだ何も書けていない空欄が一目で分かる。ここがこの道具の本質です。まずは出所とライセンス、そして「何のための道具か」を押さえてください。

定義と出典——Osterwalder と Pigneur が提唱し、Strategyzer が公式テンプレートを配布している

ビジネスモデルキャンバスは、Alexander Osterwalder(アレックス・オスターワルダー)が Yves Pigneur(イヴ・ピニュール)の指導のもとで行ったビジネスモデル・オントロジーの研究を出発点とし、両者の共著『Business Model Generation』(日本語版『ビジネスモデル・ジェネレーション』)によって広く知られるようになりました。現在、公式テンプレートを配布しているのは、両者が関わる Strategyzer AG です。

ブロックの数は9つで、公式テンプレートに印刷されている名称は Key Partners、Key Activities、Key Resources、Value Propositions、Customer Relationships、Channels、Customer Segments、Cost Structure、Revenue Streams の9つです(2026年9月16日、Strategyzer AG が配布する公式テンプレートPDFで確認)。日本語では、パートナー、主要活動、主要リソース、価値提案(バリュープロポジション)、顧客との関係、チャネル、顧客セグメント、コスト構造、収益の流れと訳されるのが一般的です。解説記事によって「リソース」「経営資源」など訳語が揺れますが、対応する英語名は上の9つで固定されています。

公式テンプレートのライセンス——CC BY-SA 3.0 非移植で公開されている

社内研修の資料や提案書にテンプレートそのものを載せてよいのかは、実務でよく聞かれる点です。Strategyzer AG が配布する公式テンプレートには、Creative Commons 表示-継承 3.0 非移植ライセンス(CC BY-SA 3.0 Unported)のもとで提供されている旨が明記されています(2026年9月16日確認)。

このライセンスは、出所(クレジット)を表示すること、改変した場合は同じライセンスで公開することを条件に、複製・配布・改変・商用利用を認めるものです。つまり、公式テンプレートをそのまま社内資料に貼ること自体は条件を満たす限り可能ですが、条件がある以上「完全に自由」ではありません。自社のロゴだけ入れて出所表示を削るような使い方は避けてください。細かな条件は、ライセンス本文(creativecommons.org)で確認するのが確実です。なお、Excelやホワイトボードに自分で9つの枠を描く分には、テンプレートの複製には当たりません。

何に使う道具か——「決める」道具ではなく「抜けを見つける」道具

ここを誤解したまま使うと、埋めても何も得られません。キャンバスは、事業の方針を決定する道具ではありません。すでに頭の中にある考えを9つの型に流し込み、書けない欄と、他の欄とつながらない欄を炙り出すための道具です。

たとえば「収益の流れ」に月額課金と書いたのに、「顧客セグメント」に予算を持たない現場担当者しか書かれていない。この矛盾は、文章の企画書では見過ごされますが、1枚に並べると目に入ります。私は相談の初回にこうした1枚絵を見せていただくことがありますが、最初に見るのは顧客セグメントと、価値提案が「何ができるか」ではなく「顧客の何が解けるか」で書かれているかの2点です。この2つが具体的な1枚は、その後の「どの機能から作るか」という会話が驚くほど速い。逆にここが抽象的なままだと、作る順番が最後まで決まりません。

では、その9つのブロックには具体的に何を書くのか。次章で1つずつ見ていきます。

9つのブロックの意味と、それぞれ何を書けばいいのか

ビジネスモデルキャンバスの9つのブロックを付箋で整理する社員

9つのブロックは、バラバラに並んでいるわけではありません。キャンバスの右側は「市場」、左側は「それを支える体制」、下段は「お金の出入り」で、中央の価値提案が両者をつないでいます。この配置を頭に入れてから個別のブロックを見ると、どの欄に何を書くかで迷いにくくなります。

9ブロック一覧表(英語名・日本語名・答える問い・書く粒度)

位置

英語名

日本語名

答える問い

書く粒度

Customer Segments

顧客セグメント

誰のために価値を作るのか。最も重要な顧客は誰か

業種・規模・役割・状況まで絞る。2〜3グループ

中央

Value Propositions

価値提案

顧客のどの課題を、どう解決するのか

顧客が得る結果で書く。機能名では書かない

Channels

チャネル

どの経路で知ってもらい、届け、使ってもらうのか

認知・購入・提供・アフターの段階ごとに

Customer Relationships

顧客との関係

顧客とどんな関係を築き、維持するのか

獲得・維持・拡大の3局面で。人か仕組みか

Revenue Streams

収益の流れ

顧客は何に対してお金を払うのか。どんな形で払うのか

課金の名目と方式(売切り・月額・従量・手数料)

Key Resources

主要リソース

提供に不可欠な資産は何か

名詞で書く。人・物・知財・資金の4分類

Key Activities

主要活動

提供に不可欠な活動は何か

動詞で書く。自社が毎日やること

Key Partners

パートナー

誰に依存し、誰から何を調達するのか

社外の相手と、そこから得るもの

Cost Structure

コスト構造

何に費用がかかるのか。最も大きい費目は何か

固定費・変動費に分け、大きい順に3〜5行

ビジネスモデルキャンバスの9ブロックの配置——左が体制(パートナー・主要活動・主要リソース)、中央が価値提案、右が市場(顧客との関係・チャネル・顧客セグメント)、下が数字(コスト構造・収益の流れ)

この9つのうち、どれか1つでも「まだ考えていない」ものがあれば、そこが今のあなたの事業の弱点です。

右側の4ブロック——誰に、何を、どう届け、どうつながるか

顧客セグメントは、価値を届ける相手のグループです。ここで「中小企業」「若年層」といった広い言葉を置くと、以降の8ブロックがすべて曖昧になります。業種、規模、社内での役割、そして「今どういう状況にあるか」まで書いてください。同じ業種でも、紙で運用している事業所とすでにツールを入れている事業所では、必要な価値がまったく違います。

価値提案は、キャンバスの中心にある欄です。「顧客のどの課題が、これによって解けるのか」を書きます。ここが最も間違えやすい欄で、後述するように機能の列挙になりがちです。「AI搭載」「クラウド対応」は機能であって価値ではありません。「毎日30分かかっていた記録の転記がなくなる」が価値です。

チャネルは、顧客に知ってもらい、買ってもらい、届け、使い続けてもらう経路です。認知(広告・紹介・展示会)、購入(直販・代理店・オンライン)、提供(アプリ・訪問・郵送)、アフター(サポート窓口・定期訪問)と、段階で分けて書くと抜けが減ります。新規事業では「認知の経路がない」ことが最大の弱点になりがちで、この欄が空白ならそこが最初に潰すべき課題です。

顧客との関係は、チャネルと混同されやすい欄ですが、こちらは「関わり方の質」を書きます。専任担当が付くのか、セルフサービスなのか、コミュニティなのか。獲得・維持・拡大の3局面で、それぞれ人が対応するのか仕組みで回すのかを決めると、後で出てくるコスト構造に直結します。

左側の3ブロック——混ざりやすい3つを「名詞・動詞・社外」で分ける

主要リソース・主要活動・パートナーの3つが同じ内容になってしまう、というのが最も多い相談です。分け方は単純で、主要リソースは名詞、主要活動は動詞、パートナーは社外の相手と決めてしまえば混ざりません。

主要リソースは、事業を成立させるために自社が持っていなければならない資産です。人的資源(エンジニア、業界経験者)、物的資源(設備、店舗)、知的資源(特許、ブランド、蓄積データ)、財務資源(運転資金)の4つに分けると漏れにくくなります。「開発チーム」はリソース、「開発する」は活動です。

主要活動は、価値提案を成り立たせるために自社が繰り返し行う仕事です。製品を作る、プラットフォームを運営する、課題を解決する(コンサルティング型)のいずれかに大別できます。すべての業務を書き出すのではなく、「これをやめたら価値提案が崩れる」ものだけを3〜5個に絞ってください。

パートナーは、自社でやらないと決めた部分を担う社外の相手です。仕入先、業務提携先、開発の委託先などが入ります。この欄を書くコツは、相手の名前だけでなく「そこから何を得るのか(調達するリソースか、代行してもらう活動か)」を併記することです。そうすると、主要リソースと主要活動の欄と自然につながります。

下段の2ブロック——金額より先に「何で入るか・何で出るか」を書く

収益の流れには、顧客が何に対して支払うのかと、その支払い方を書きます。名目(利用料、初期設定費、手数料、広告収入)と方式(売り切り、月額、従量、レベニューシェア)の2つをセットで書いてください。「売上」とだけ書いた欄には情報がありません。

コスト構造には、事業を回すのにかかる費用を、大きい順に3〜5行だけ書きます。固定費(人件費、家賃、サーバー)と変動費(仕入、決済手数料)を分け、どちらが主体かを意識します。新規事業では人件費と開発費が大半を占めるのが普通です。

ここまでで、9つの欄それぞれに何を書くかが分かりました。ただし、この順番で上から埋めていくと、多くの人は3つ目あたりで手が止まります。次章では、詰まらない順番を説明します。

埋める順番——右から左へ、最後に数字の両端を突き合わせる

ビジネスモデルキャンバスを埋める順番をノートに書き出す担当者

9つを均等に、思いついた欄から埋めようとすると必ず詰まります。順番には理由があり、右側(市場)を固めてから左側(体制)へ進み、最後に下段の数字で両端を突き合わせる、という流れが最も手が止まりません。所要時間の目安も添えておきます。

順番の一覧(9ステップ)と、各ステップの所要時間の目安

ブロック

このステップで決めること

目安時間

1

顧客セグメント

誰の、どんな状況を相手にするか。2〜3グループに絞る

20分

2

価値提案

その顧客のどの課題が解けるか。顧客が得る結果で書く

20分

3

チャネル

どう知ってもらい、どう届けるか。認知の経路を必ず埋める

10分

4

顧客との関係

獲得・維持・拡大を、人でやるか仕組みでやるか

10分

5

収益の流れ

何に対して、どんな方式で払ってもらうか

10分

6

主要リソース

提供に不可欠な資産(名詞)を3〜5個

10分

7

主要活動

提供に不可欠な仕事(動詞)を3〜5個

10分

8

パートナー

社外に任せる部分と、そこから得るもの

10分

9

コスト構造

大きい費目を3〜5行。固定費と変動費に分ける

15分

ビジネスモデルキャンバスを埋める順番9ステップ(顧客セグメントから始めてコスト構造で終える)と、収益→顧客・コスト→リソースと活動のつながりを確認する4つのチェック

合計で2時間弱です。初回は完璧を目指さず、この時間で一巡させてください。書けない欄は空欄のまま次へ進みます。空欄は失敗ではなく、「まだ決めていない」という情報です。

なぜ顧客セグメントから始めるのか——ここが決まらないと残り8つが抽象語で埋まる

顧客セグメントは、残り8ブロックすべての前提になります。顧客が決まれば、その人の課題(価値提案)が書け、その人がいる場所(チャネル)が書け、その人の予算の出どころ(収益の流れ)が書けます。逆に顧客が「中小企業全般」のままだと、価値提案は「業務効率化」、チャネルは「Web」、収益は「月額課金」と、どの事業にも当てはまる言葉で全部が埋まってしまいます。

私は約100社の開発体制づくりに関わってきましたが、顧客セグメントが広いまま開発に入った案件は、作る機能の優先順位が最後まで決まりません。誰の何を優先するかの基準が存在しないからです。これは失敗のもとです。開発が始まってから絞り込むより、キャンバスの段階で20分かけて絞るほうが圧倒的に安く済みます。

なお、順番はあくまで「詰まらないための型」です。既存事業を記述する場合は、すでに答えが出ている欄(主要活動やコスト構造)から埋めて構いません。順番が効くのは、まだ答えがない新規事業のときです。

ブロック同士のつながりの読み方——収益は顧客へ、コストはリソースと活動へ。孤立した欄は仮説の穴

一巡したら、埋めた内容を眺めるのではなく、線を引いて確かめます。確認するつながりは次の4本です。

  1. 収益の流れ → 顧客セグメント: それぞれの収益は、どの顧客が払うのか。払う人が書かれていない収益は、誰も払わない収益です
  2. 収益の流れ → 価値提案: 顧客はどの価値に対して払うのか。「便利だから」は対価の理由になりません
  3. コスト構造 → 主要リソース・主要活動: 大きい費目は、必ずどれかのリソースか活動に対応します。対応がないコストは、実は不要な支出かもしれません
  4. チャネル・顧客との関係 → コスト構造: 専任担当を付ける、展示会に出る、と書いたなら、その費用がコスト構造に現れているはずです

Strategyzer も、すべてのブロックが互いにつながっていること、収益の流れが対応する顧客セグメントと価値提案に結びついていることを、質の高いキャンバスの条件として挙げています。どこともつながらない「孤立したブロック」があれば、そこは埋めたつもりで検証していない仮説の穴です。

つながりを確認するところまでが、キャンバスを「埋める」作業です。ここまでやらないと、ただの項目一覧で終わります。次章では、実際に1枚を通しで埋めた例を見ながら、起きやすい失敗を3つ直していきます。

記入例を1枚通しで——介護事業者向けの記録アプリと、そこで起きやすい失敗3つ

ビジネスモデルキャンバスの記入例を見ながら内容を確認し合う担当者

9つのブロックを別々の例で説明されても、つながりは見えません。ここでは1つの事業で9ブロックすべてを通しで埋めます。題材は「訪問介護事業所向けの記録アプリ」です。実在企業の事業ではなく、書き方を示すために作った例なので、数字や固有名詞は自社のものに置き換えて読んでください。

記入例(9ブロック全記入)

ブロック

記入内容

顧客セグメント

(1) 訪問介護事業所のうち、ヘルパー30〜100名規模で、訪問記録を紙とFAXで運用している事業所 (2) その事業所のサービス提供責任者(記録の回収と転記を担当し、残業の主因になっている) ※法人代表は決裁者だが利用者ではない

価値提案

ヘルパーが訪問先でスマートフォンに入力した記録が、事務所での転記なしにそのまま実績記録票になる。サービス提供責任者の月末の転記作業(1人あたり月20時間)がなくなり、記録漏れによる報酬返還のリスクが下がる

チャネル

認知: 介護事業者向けの業界紙、地域の介護事業者連絡会での紹介、既存顧客からの紹介 / 購入: 直販(オンライン商談) / 提供: iOS・Androidアプリと管理Webの提供 / アフター: 導入初月のオンライン研修と、チャットサポート

顧客との関係

獲得: 30日間の無料トライアルと、初期設定の代行(人が対応) / 維持: チャットサポートとヘルプ記事(仕組みで対応) / 拡大: 半年ごとの利用状況レビューで、請求機能の追加提案(人が対応)

収益の流れ

(1) 月額利用料: ヘルパー1人あたり月額1,000円(最低20人分から) (2) 初期設定費: 1事業所あたり10万円(既存の利用者データ移行を含む) ※広告収入や成果報酬は取らない

主要リソース

(1) 介護報酬の記録要件を理解している業務知識(記録様式の法令要件) (2) オフラインでも入力できるモバイルアプリと、その開発チーム (3) 既存顧客20事業所の運用データ (4) 初期の運転資金

主要活動

(1) アプリと管理Webの開発・保守 (2) 介護報酬改定に合わせた記録様式の更新(3年ごとの改定に追随) (3) 導入時の初期設定と研修 (4) 業界団体・連絡会でのリレーション構築

パートナー

(1) 介護請求ソフトのベンダー(実績データの連携先。連携APIの提供を受ける) (2) 地域の介護事業者連絡会(認知の経路) (3) 開発の一部を委託する開発パートナー(アプリ開発の人員を確保)

コスト構造

固定費: 開発チームの人件費(最大費目)、サーバー費用、サポート人件費 / 変動費: 初期設定の実施コスト(1事業所あたり人日換算)、決済手数料 ※認知はほぼ紹介のため広告費は小さい

つながりを確認してみてください。収益の流れ(1)の月額利用料は顧客セグメント(1)の事業所が払い、価値提案の「転記作業がなくなる」に対する対価です。コスト構造の最大費目である開発チームの人件費は、主要リソース(2)と主要活動(1)に対応しています。パートナー(3)の開発委託は、主要活動(1)を自社だけでは回せないという前提の裏返しです。ここまで線がつながっていれば、1枚として成立しています。

失敗1: 顧客セグメントが広すぎる——「介護事業者」を3つの問いで絞る

最も多い失敗です。上の例で顧客セグメントが「介護事業者」とだけ書かれていたら、価値提案は「介護業務の効率化」になり、チャネルは「Web広告」になり、どの事業にも当てはまる1枚が出来上がります。

絞るときは、次の3つの問いに答えてください。

問い

例(ビフォー → アフター)

どの業態・規模か

介護事業者 → 訪問介護事業所、ヘルパー30〜100名規模

社内の誰が使い、誰が決めるか

介護事業者 → 使うのはヘルパーとサービス提供責任者、決めるのは法人代表

今どういう状況にあるか

(記載なし) → 記録を紙とFAXで運用し、月末の転記が残業の主因

3つ目の「今どういう状況か」が抜けている1枚が非常に多いのですが、ここが価値提案の具体性を決めます。すでにツールを入れている事業所と、紙で運用している事業所では、刺さる価値がまったく違うからです。

私が相談を受けてきた中でも、顧客セグメントが広いまま開発に入った案件は、作る機能の優先順位が最後まで決まりませんでした。誰のどの状況を優先するかという基準がないと、社内の声の大きい人の意見で機能が決まっていきます。要注意です。

失敗2: 価値提案が機能の列挙になる——「できること」ではなく「解ける課題」で書き直す

2つ目は、価値提案の欄に自社プロダクトの機能一覧が並ぶ失敗です。書いた本人は具体的に書いたつもりなので、指摘されるまで気づきません。

ビフォー(機能の列挙)

アフター(解ける課題)

AI搭載、クラウド対応、スマホ入力に対応

訪問先でその場で入力できるので、事務所に戻ってからの転記作業がなくなる

豊富なテンプレートを用意

介護報酬の記録要件を満たす様式が最初から入っているので、様式の作成と法改正対応を自社でやらなくてよい

使いやすいUI

ITに不慣れなヘルパーでも、研修30分で入力できる

見分け方は簡単で、その一文を読んだ顧客が「それで自分の何が変わるのか」と聞き返せるなら、まだ機能です。Strategyzer も、価値提案を「顧客の課題を解決し、競合と自社を区別する製品・サービスの組み合わせ」と定義しており、価値は価格や速度のような定量的なものと、デザインや体験のような定性的なものの両方がありうるとしています。機能名そのものは、どちらでもありません。

失敗3: コスト構造が空欄のまま——固定費・変動費・人件費の3行だけ先に置く

3つ目は、右側は熱心に埋めたのに、左下のコスト構造だけ空欄のまま提出される失敗です。「まだ見積もっていないから」という理由で飛ばされますが、コスト構造が空欄のキャンバスは、事業として成立するかを何も言っていないのと同じです。

金額が分からなくても構いません。最初は次の3行だけ置いてください。

  1. 最大の固定費は何か(多くの新規事業では開発チームの人件費)
  2. 顧客が1件増えるたびに増える費用は何か(初期設定の工数、決済手数料、サーバー費)
  3. 立ち上げまでに一度だけかかる費用は何か(初期開発費、法令確認、認証取得)

この3行が埋まると、収益の流れと突き合わせられるようになります。上の例なら、月額1,000円×20人=月2万円の収益に対し、初期設定に人日単位のコストがかかるとすれば、何か月で回収できるのかという問いが自然に出てきます。この問いが出た時点で、キャンバスは仕事をしています。金額の精度を上げるのは後でよく、空欄のままにすることだけが避けるべき失敗です。

チームで使う——ワークショップの進行と、リーンキャンバスとの使い分け

ビジネスモデルキャンバスを付箋で作るワークショップの様子

キャンバスは1人でも作れますが、本領を発揮するのはチームで作るときです。同じ事業について、営業・開発・経営で頭の中の絵が違っていることが、1枚の上で可視化されるからです。ここでは半日ワークショップの型と、進行役が止めるべき場面を示します。

半日ワークショップの進行(人数・時間配分・付箋・決め方)

時間

やること

進め方

0:00-0:15

目的とルールの共有

「今日の成果物は1枚。完璧でなくてよい」と最初に宣言する。空欄を許すと明言する

0:15-0:25

9ブロックの説明

各ブロックを「答える問い」の形で読み上げる。定義の講義はしない

0:25-0:45

個人作業(1) 顧客セグメントと価値提案

全員が別々の付箋に1人で書く。この時点では議論しない

0:45-1:15

差分の共有と統合

付箋を貼り出し、ばらつきの大きい欄から議論する。統合案を1つに決める

1:15-1:45

個人作業(2) チャネル〜コスト構造

残り7ブロックを1人で一巡。書けない欄は空欄でよい

1:45-2:15

統合と、つながりの確認

収益→顧客、コスト→リソース・活動の線を引く。孤立した欄に印を付ける

2:15-2:45

仮説の順位付け

「外れたら事業が成立しない」順に3つ選ぶ

2:45-3:00

次のアクションの決定

誰が、いつまでに、どの仮説を、どう確かめるかを書き出す

参加人数は4〜6人が上限です。7人を超えると統合の議論が終わりません。複数チームで並行する場合は、1チーム4〜5人に分け、最後に発表して相互に質問する形が機能します。

要点は、先に1人で書かせることです。最初から全員で1枚を囲むと、声の大きい人や役職者の案に全員が寄り、ばらつきが見えなくなります。ばらつきこそが、このワークショップで得たい情報です。

進行役が止めるべき3つの場面

  1. 顧客の話が終わらないうちに機能の話へ飛ぶ: 「それはどの欄の話ですか」と聞いて、顧客セグメントに戻す
  2. 「全員が対象です」と書かれる: 「最初の10社は誰ですか」と聞き直す。全員向けは誰向けでもありません
  3. コスト構造を飛ばして終わろうとする: 金額不要、費目だけ3行と伝えて必ず埋めさせる

この3つを止めるだけで、成果物の質がはっきり変わります。

リーンキャンバスとの違い——4ブロックが置き換わる。使い分けは「記述」か「仮説」か

よく比較されるリーンキャンバスは、Ash Maurya がビジネスモデルキャンバスを不確実性の高いスタートアップ向けに改変したもので、9マスという形は同じですが、パートナー・主要活動・主要リソース・顧客との関係の4ブロックが、課題・解決策・主要指標・圧倒的な優位性に置き換わっています。使い分けはおおまかに、すでに形のある事業の全体像を記述したいならビジネスモデルキャンバス、まだ顧客も課題も確かめられていない新規事業の仮説を並べたいならリーンキャンバスです。両方作る必要はありません。書き方や記入の手順は別の記事に譲ります。

キャンバスが1枚できて、仮説に順位も付いた。では、その次に何をすればよいのでしょうか。

埋めたあとに何をするか——最も危ない仮説から、小さく作って試す

TALENTBASE VIETNAMの日本人PMとベトナム人エンジニアが新規事業の開発を進める現場

ここまでで1枚が完成しました。ただし、完成したのは事業計画ではなく、9つの欄に並んだ仮説の一覧です。検証していない限り、それはきれいに整理された思い込みのままです。最後に、1枚を現実に当てるための3ステップを示します。

仮説に順位をつける——「外れたら事業が成立しない」順に並べる

すべての欄を同じ熱量で確かめる必要はありません。並べる基準は「不確かさ」と「外れたときの致命度」の2つで、両方が高いものから手を付けます。

順位の目安

典型的な仮説

外れたときに起きること

1

顧客セグメントの人が、その課題を本当に困っていると認識している

誰も買わない。事業そのものが不成立

2

その課題に対して、想定した金額を払う

使われるが儲からない。価格の作り直し

3

想定したチャネルで、顧客に到達できる

良いものが届かない。獲得コストが跳ね上がる

4

想定したコストで作り、運用できる

利益が出ない。体制の作り直し

多くの新規事業は、1と2を確かめないまま4(作ること)から始めて、時間と費用を失います。順番が逆です。

検証の形を選ぶ——聞く・売ってみる・作って試す

仮説の種類によって、確かめ方は変わります。課題があるかどうかは、対象顧客10〜20人への聞き取りで足ります。払うかどうかは、資料だけで見積もりを出して反応を見る、あるいは先行予約を取る形で確かめられます。そして「使えるものになるか」は、実際に動くものを最小限の範囲で作って試すしかありません。この最小限の実物を作って検証する進め方は、『MVP開発とは』の記事で工程・種類・費用まで解説しています。ここでは「1と2を確かめてから作る」という順番だけ押さえてください。

なお、キャンバスの内容を開発の要件に落とす段取りは『要件定義とは』の記事が対応します。そもそも作らずに済ませられないかを検討するなら『ノーコードとは』の記事が参考になります。

作る段階の開発リソースをどう確保するか——3つの選択肢と、当社の位置づけ

構想が固まると、最後に現実の壁として残るのが「誰が作るのか」です。選択肢は大きく3つで、それぞれ向き不向きがあります。詳しくは『開発リソースとは』の記事で7つの選択肢を比較していますが、要点は次のとおりです。

選択肢

向く場面

注意点

社内で採用する

事業が中核で、長期に内製化したい

採用に数か月かかり、構想段階の検証には間に合わないことが多い

業務委託・フリーランス

検証用の小さな試作を短期で作りたい

人数を増やしにくく、仕様が動く長期開発には向かない

ラボ型開発(専属チームを月額で確保)

仕様が動く前提で、継続的に作り替えながら進めたい

月額固定のため、作るものがない期間は費用が無駄になる

当社はこのうちラボ型開発を提供しており、ホーチミンを拠点に、グループの2,000名以上のIT人財データベース(日本語N1〜N2相当を含む)から直接アサインしています。協力会社を経由しないため仲介マージンが乗りません。単価は公開しており、実務3年目安で1,500USD(約22.5万円 / 1USD=150円換算目安)、ブリッジSEで3,000USDです。最小構成は日本人PMをフロントに置いて2〜3人月で月額約80万円からで、1名から契約でき、増員は約1週間、縮小と交代は1か月単位で調整できます。契約と支払いは日本国内法人・日本法準拠のため、海外送金の手続きは発生しません。

構想段階から関わった例では、介護記録SaaS「CareViewer」を日本語が話せるブリッジSE1名とフルスタックエンジニア2名で継続開発しており、週次で優先順位を判断するだけで回っています。金融系のマッチングサービスでは、PM1名とフルスタック2名の体制で構想段階から伴走しました。

ただし正直に申し上げると、ラボ型が向くのは「作り替えながら進む」案件です。要件が完全に固まった単発の開発や、月30万円に満たない小さな開発は、請負や業務委託のほうが合理的です。発注先の選び方そのものは『システム開発会社の選び方』の記事にまとめています。キャンバスの段階では、どの選択肢を取るかまで決める必要はありません。決めるべきなのは、「1と2の仮説を確かめるまでは、作る体制に大きなお金を入れない」という順番のほうです。

ビジネスモデルキャンバスに関するよくある質問

ビジネスモデルキャンバスに関する質問に答える担当者

ビジネスモデルキャンバスを実際に作る場で、繰り返し聞かれる質問を5つにまとめました。テンプレートの利用条件、空欄の扱い、1人で作ってよいかなど、作り始める前に引っかかりやすい点を先に片付けておきます。社内での説明資料にもそのままお使いください。

Q1. 公式テンプレートは無料で使えますか?

Strategyzer AG が配布する公式テンプレートは、Creative Commons 表示-継承 3.0 非移植ライセンス(CC BY-SA 3.0 Unported)のもとで提供されています(2026年9月16日確認)。出所を表示すること、改変物を同じライセンスで公開することが条件です。社内資料に載せる場合は出所表示を消さないでください。自分で9つの枠を描いて使う分には、テンプレートの複製には当たりません。

Q2. 埋められない欄があってもいいですか?

問題ありません。むしろ空欄を無理に埋めるほうが危険です。空欄は「まだ決めていない」という情報であり、次に確かめるべき箇所を指しています。初回は2時間で一巡させ、空欄に印を付けて次のアクションに回してください。

Q3. 1人で作ってもいいですか?

1人でも作れますが、チームで作ると価値が上がります。同じ事業について営業・開発・経営で頭の中の絵が違っていることが、1枚の上で見えるからです。その場合は、最初から全員で囲まず、まず1人ずつ書いてから差分を突き合わせてください。

Q4. 事業計画書の代わりになりますか?

なりません。キャンバスは仮説の一覧であり、数値計画・実行計画・体制・リスク対応を含みません。事業計画書の前段として全体像を共有し、検証すべき論点を洗い出すための道具と位置づけてください。逆に、キャンバスなしで作った事業計画書は、前提が言語化されないまま数字だけが積み上がりがちです。

Q5. 既存事業にも使えますか?

使えます。既存事業では、まず現状(as-is)を1枚に記述し、そのうえで変えたい将来像(to-be)をもう1枚作って並べる方法が有効です。2枚の差分が、そのまま取り組むべき変革のリスト。

まとめ: 9つのブロックを順番に埋め、つながりを確かめ、最も危ない仮説から試す

ビジネスモデルキャンバスは、事業を9つのブロックに分けて1枚に描く道具です。Alexander Osterwalder と Yves Pigneur が提唱し、公式テンプレートは Strategyzer AG が Creative Commons 表示-継承 3.0 非移植ライセンスで公開しています(2026年9月16日確認)。9つを均等に埋めようとすると詰まります。顧客セグメント、価値提案、チャネル、顧客との関係、収益の流れ、主要リソース、主要活動、パートナー、コスト構造の順で右から左へ進み、最後に収益とコストを突き合わせてください。2時間で一巡すれば十分です。

一巡したら、眺めるのではなく線を引いて確かめます。収益はどの顧客が払うのか、コストの大きい費目はどのリソースと活動に対応するのか。どこともつながらない欄と空欄が、あなたの事業でまだ確かめられていない部分です。よくある失敗は3つで、顧客セグメントが広すぎること、価値提案が機能の列挙になること、コスト構造が空欄のまま提出されることです。いずれも、埋め方ではなく絞り方と書き換え方の問題です。

そして、埋め終わった1枚は事業計画ではなく仮説の一覧です。外れたら事業が成立しない仮説から順に、聞く・売ってみる・作って試すの順で確かめてください。最小限の実物を作って検証する進め方はMVP開発とは、作る段階で専属チームを月額で確保する形はラボ型開発とはにまとめています。当社はホーチミンでラボ型開発を提供しており、1名から、日本人PMをフロントに置く構成で月額約80万円から対応しています。現在の体制と要件をお聞かせいただければ、どの進め方が合うかの判断と概算見積もりでお答えします。合わない案件にはその旨も率直にお伝えします。

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