要件定義書の書き方【2026年版】9章の章立てと記載例、レビュー観点、社内合意の取り方

2026.09.15|ノウハウ|文: 中元 亨

「テンプレートは手に入ったのに、空欄を何で埋めればいいのか分からない」——要件定義書をこれから書く方から、こうした相談をよく受けます。項目名は並んでいる。けれど「システム概要」に何行書けばよいのか、「非機能要件」に何を入れれば漏れがないのか、そもそもどこまで細かく書くと設計の邪魔になるのか。埋め方の基準がないまま、ファイルを開いては閉じる日が続く。これが実情です。

結論から言うと、要件定義書の書き方は4段階で決まります。章立ての型を写す。各章を「テストで合否を判定できる一文」に直す。レビューで3つのNGパターンを潰す。承認と変更管理のルールを1章に書いておく。この順番で進めれば、初めて書く人でも設計に渡せる水準に届きます。逆に言えば、分量やページ数は合格条件ではありません。

合格条件は2つだけです。設計者が判断に迷わないこと。そして、業務側の責任者が読み切れること。この2つを同時に満たす文書が良い要件定義書で、片方に寄ると必ずどこかで壊れます。技術用語ばかりの文書は業務側が表面的に承認して終わり、曖昧な形容詞だらけの文書は設計者が勝手に解釈して手戻りになる。書きすぎも書かなすぎも、どちらも失敗のもとです。

本記事では、要件定義書という文書そのものの書き方に絞って解説します。文書の役割と要求定義書・設計書との線引き、9章の章立ての型、各章の記載例(曖昧な一文を判定できる一文に直す対比)、レビューで落ちる3類型と承認前の5つの問い、変更管理のルール、AIに草案を書かせるときの注意、そして当社の位置づけとよくある質問の順です。要件定義という工程の進め方そのものは「要件定義の進め方」の記事に譲ります。

私は人材業界の出身で、2018年からホーチミンでベトナムオフショア開発の体制づくりに携わり、約100社の相談に乗ってきました。海外のチームに文書を渡す仕事をしていると、曖昧さの代償がそのまま手戻りとして返ってきます。「速く表示されること」と書かれた一文が、実装後に「2秒以内のつもりだった」と判明して作り直しになる。この記事を読み終えるころには、その一文をどう書き直せばよいかが分かるはずです。

目次
  1. 要件定義書とは何を書く文書か
  2. 役割は2つ——「合意形成の道具」と「後工程へのインプット」
  3. 要求定義書・要件定義書・基本設計書の線引き
  4. 誰が作るのか
  5. 要件定義書の章立て(目次)の型
  6. 9章の章立てと、各章に置くものの対応表
  7. この順序に意味がある
  8. 白紙から起こさない
  9. 各章に何を書くか
  10. 1〜2章(目的・対象範囲・対象外): 定量目標と「やらないこと」を同じページに書く
  11. 3章(業務要件): As-IsとTo-Beを同じ粒度で並べ、差分を数字で見せる
  12. 4章(機能要件): 一覧表の列構成と、書きすぎない粒度の線引き
  13. 5〜6章(データ要件・非機能要件): 非機能はIPAの6大項目を観点リストにする
  14. 曖昧な一文を直す対比表
  15. 書き上げたあとが本番
  16. レビューで落ちる3類型(測れない形容詞・対象外なし・例外系なし)の見つけ方
  17. 承認前の5つの問いと、中間レビュー・最終レビューの二段階
  18. 社内合意の取り方
  19. AIに要件定義書の草案を書かせるときの注意
  20. 任せてよい作業と、任せてはいけない判断の対応表
  21. 使うときの3つのルール
  22. 当社の位置づけ
  23. 文書化をどこまで巻き取れるか
  24. 向く案件・向かない案件
  25. 要件定義書の書き方でよくある質問
  26. Q1. 要件定義書はどれくらいの分量が適切ですか?
  27. Q2. ExcelとWordのどちらで書くべきですか?
  28. Q3. 要件定義書と仕様書・設計書は何が違うのですか?
  29. Q4. アジャイル開発でも要件定義書は必要ですか?
  30. Q5. 開発会社に要件定義書を書いてもらってよいですか?
  31. まとめ: 型に沿って書き、数値と条件で書き、レビューで潰し、変更管理まで決める

要件定義書とは何を書く文書か——2つの役割と、要求定義書・仕様書との線引き、誰が作るのか

要件定義書とは何を書く文書かを説明を受けながら確認する担当者

要件定義書とは、システムで実現する内容を発注側と開発側が合意するための文書です。書き方に入る前に、この文書が何のために存在し、前後の文書とどう違い、誰が責任を持つのかを押さえてください。ここを取り違えたまま書き始めると、章立てを正しく写しても中身がずれます。要件定義という工程そのものの全体像は「要件定義とは」の記事で扱っていますので、ここでは文書に絞ります。

役割は2つ——「合意形成の道具」と「後工程へのインプット」

要件定義書には役割が2つあります。1つ目は合意形成の道具としての役割です。発注側の責任者が内容を承認することで開発範囲が確定し、検収の基準になります。2つ目は後工程へのインプットとしての役割で、設計者はこの文書を判断基準にして基本設計を進めます。

この2つを難しくしているのは、読者が「業務側の責任者」と「開発側の技術者」の両方にまたがることです。業務側が読めない専門用語の羅列も、技術者が判断に使えない曖昧な表現も、どちらも役割を果たしません。実務では、本文(業務側が読む説明)と別紙(設計者が使う一覧表)に分け、本文から別紙を参照する構成にすると両立します。当社でも海外のチームに渡す文書はこの形にしています。

私は、要件定義書の合格条件は2つだけだと考えています。設計者が判断に迷わないことと、業務側の責任者が読み切れること。ページ数の多さは合格条件ではありません。

要求定義書・要件定義書・基本設計書の線引き——Why、What、Howで分ける

似た名前の文書が並ぶので、役割で整理しておきます。

文書

答えるもの

主体

書かれること

要求定義書(RFPに含まれることも多い)

なぜ(Why)・何をしたいか

発注側

ビジネス上の課題、実現したいこと。まだ機能や仕様には触れない

要件定義書

何を実現するか(What)

開発側が主導し、発注側が承認する

目的、対象範囲と対象外、業務要件、機能要件、非機能要件、制約

基本設計書・詳細設計書・仕様書

どう実現するか(How)

開発側

画面レイアウト、データベース構造、処理の詳細、テスト仕様

「要件定義書と仕様書は何が違うのか」という質問をよく受けますが、線引きはこの1行です。要件定義書は意図と範囲を確定させ、設計書はその実現方法を決めます。したがって、要件定義書に画面のボタン配置や入力チェックの詳細まで書き込むのは行きすぎです。設計工程の裁量を奪い、変更のたびに要件定義書の改訂が必要になって、文書が形骸化します。設計以降の文書をどの粒度で書くかは「オフショア開発の仕様書の書き方」の記事で扱っています。発注前に出すRFPとの書き分けは「システム開発のRFPの書き方」の記事を参照してください。

誰が作るのか——執筆はベンダー主導でも、業務要件の責任は発注側に残る

受託開発では、開発会社側が執筆を主導し、発注側がインプット提供とレビューを担う分担が一般的です。ただし、執筆の主体がどちらであっても、業務要件の正しさに責任を持てるのは発注側だけです。自社の業務にどんな例外運用があり、どの部門が何を譲れないかは、外部からは見えません。

IPAが公開している「ユーザのための要件定義ガイド 第2版」(2019年9月12日公開)も、システムの要件を定義する責任は、構築されたシステムを使ってビジネスに貢献する役目を負うユーザ側にあるという立場を取っています。同ガイドは7つの章から成り、ビジネス要求定義、システム化要求定義、要件定義マネジメント、主要ドキュメント作成といった局面を扱っています。「書いてもらう文書」ではなく「共同で作り、自社が承認する文書」と捉えることが、書き方以前の前提です。

なお、この記事では文書の書き方に話を絞ります。誰がいつ何を決めるかという工程の手順、発注者とベンダーの役割分担の詳細、決めるべき項目の順番については「要件定義の進め方」の記事で5つのステップとして整理していますので、工程から知りたい方はそちらを先にご覧ください。ここから先は、実際に文書を組み立てる作業に入ります。

要件定義書の章立て(目次)の型——9章の並びと、規模に応じて削る判断

要件定義書の章立て9章を並べて目次を検討する手元

書き方で最初に決めるのは目次です。要件定義書は、章立ての型に沿って書くだけで抜け漏れが大きく減ります。ここでは実務で使われている9章の並びを示し、そのうえで「削る前提で使う」という運用を説明します。案件によって章は増減しますが、増やすより削るほうが安全です。

9章の章立てと、各章に置くものの対応表

章タイトル

主な記載内容

小規模案件で削ってよいか

1

はじめに

背景、システム化の目的、本書の位置づけ、版管理履歴、変更管理のルール

削らない

2

プロジェクト概要

全体像、対象業務・対象部門、対象外事項、前提条件

削らない

3

業務要件

現行業務フロー(As-Is)、新業務フロー(To-Be)、業務上の課題と解決方針、定量目標

削らない

4

機能要件

機能一覧、画面一覧、帳票一覧、外部システム連携一覧、権限マトリクス

削らない

5

データ要件

主要データ項目、件数の見込み、保存期間、既存データの移行方針と移行基準日

新規構築で移行なしなら簡略化

6

非機能要件

可用性、性能・拡張性、運用・保守性、移行性、セキュリティ、システム環境

削らない(観点ごとに「対象外」と書く)

7

制約条件

技術・利用環境の制約、予算、納期、法令・業界ガイドライン

削らない

8

体制とスケジュール

推進体制、役割分担、マイルストーン、承認プロセス

契約書・別紙にある場合は参照で代替可

9

用語集

業務用語の定義(「受注」「案件」「顧客」など社内で自明とされる語ほど書く)

削らない

要件定義書の章立て9章(はじめに・プロジェクト概要・業務要件・機能要件・データ要件・非機能要件・制約条件・体制とスケジュール・用語集)と、要求定義書(Why)・要件定義書(What)・基本設計書(How)の役割分担

9章の用語集は省かれがちですが、業務側と開発側が同じ単語を別の意味で使っている状態は、要件のずれを直接生みます。海外のチームが入る案件では、ここが抜けると翻訳の段階でずれが発生するため、当社では用語集を最初に作ることをお願いしています。

この順序に意味がある——「なぜ作るか→何の業務か→何を作るか→どんな品質で作るか」

この並びは、読み手が自然に理解できる順になっています。なぜ作るのか(1〜2章)、何の業務のためか(3章)、何を作るのか(4〜5章)、どんな品質で作るのか(6〜7章)、誰がいつ進めるのか(8章)。この順で読めば、後ろの章の判断根拠が前の章にある状態になります。

逆に、いきなり機能一覧から書き始めるのが典型的な失敗です。機能の要不要を判断する基準が文書の中にないため、レビューで「この機能は本当に必要か」と問われたときに答えられません。目的と対象範囲を先に書いておけば、その問いには「1章の目的に照らして必要」と答えられます。

白紙から起こさない——公開テンプレートを下敷きにし、削った理由を1章に残す

章立てをゼロから考える必要はありません。デジタル庁の標準ガイドライン群には「実践ガイドブック 第3編第5章 要件定義」があり、政府情報システムの要件定義書の構成が公開されています。民間案件でも章立ての骨格として参照でき、公共案件に近い体裁が求められる場面ではそのまま土台にできます。民間向けの下敷きとしては、IPAが「システム構築の上流工程強化」として公開している成果物一式(要件定義、システム再構築、非機能要求グレード)が使えます。いずれもアーカイブ扱いながら、2026年時点で公開が続いています。

ただし、テンプレートは汎用的に作られているため、自社の案件に関係ない章を惰性で埋めると、読み手の集中力を奪う文書になります。テンプレートは削る前提で使ってください。そのうえで、下敷きにした資料名と、削った章とその理由を1章の「本書の位置づけ」に1段落で書き残しておく。これをやっておくと、後任者が「なぜこの章がないのか」を追跡でき、引き継ぎの際に検討漏れと意図的な省略を区別できます。章を足すより、削った記録を残すほうが後で効きます。

各章に何を書くか——「測れない一文」を「判定できる一文」に直す記載例

要件定義書の各章を判定できる一文に書き直す担当者

ここからが書き方の核心です。判断基準は1つだけで、「その一文で合否を判定できるか」です。読んだ人によって解釈が分かれる書き方は、解釈の幅がそのまま手戻りの幅になります。章ごとに、何をどの粒度で書くかを見ていきます。

1〜2章(目的・対象範囲・対象外): 定量目標と「やらないこと」を同じページに書く

1章の目的は、定性的な言葉で終わらせず、数値と期日を入れてください。「経費精算を効率化する」では合否を判定できませんが、「紙の経費精算をWeb化し、経理部門の入力にかかる時間を2026年度末までに現在の半分にする」なら、稼働後に達成度を測れます。この一文が、あとで「この機能は必要か」と問われたときの判断根拠になります。

2章で最も重要なのは対象外事項です。何を作るかと同じだけ、何を作らないかを書いてください。「国内子会社3社・正社員800名の交通費と出張費の申請から承認、仕訳連携まで」と範囲を書いたうえで、「海外子会社、業務委託者の精算、法人カード明細の自動取り込みは本フェーズの対象外(次期検討)」と明記する。対象外が書かれていない要件定義書は、開発中に要望が無限に追加される余地を残したまま承認されることになります。範囲の膨張を防ぐ力は、この数行が一番強いです。

3章(業務要件): As-IsとTo-Beを同じ粒度で並べ、差分を数字で見せる

業務要件は、現行業務(As-Is)と導入後(To-Be)を同じ粒度で並べます。部門をスイムレーンで分け、システムが担う処理と人が担う作業を区別して示すと、システム化の範囲が視覚的に確定します。

大事なのは差分を数字で書くことです。「As-Is: 申請者が紙を提出→上長が押印→経理が手入力、平均7営業日」「To-Be: 申請者がスマートフォンで撮影→上長がWeb承認→自動仕訳、3営業日以内」。稟議の場で最初に問われるのはこの差分なので、業務要件の章の先頭に置くと説明が通ります。図が読めない状態で機能一覧だけを見せると、必要性の議論が空転します。

なお、導入後のフローで人の作業として残る部分は、あえて明示してください。そこが運用設計とマニュアル整備の対象になります。

4章(機能要件): 一覧表の列構成と、書きすぎない粒度の線引き

機能要件は一覧表で管理します。列は次の6つを基本にしてください。

書くこと

書かないこと

機能ID

FN-010 のような一意の番号。画面IDと対応させる

機能名

受注登録、在庫引当など業務の言葉

技術用語

概要

「受注情報を登録・修正・削除できる」程度の一文

入力チェックの詳細、ボタン配置

利用者(アクター)

営業担当、経理担当、システム管理者などの役割

個人名

優先度

必須 / あれば良い の二段階でもよい。必ず付ける

異常時の動作

連携先が応答しないときの表示・通知・再送の方針を1行

例外処理の実装方法

概要の粒度が書き方の分かれ目です。詳細を書きすぎると設計工程の裁量を奪い、変更のたびに要件定義書の改訂が発生して文書が形骸化します。「入力チェックの詳細は基本設計で確定する」と備考に書いておけば十分です。逆に、優先度の列を空欄にしたまま進めるのは要注意です。予算やスケジュールが厳しくなったときに、どこから削るかの判断がこの欄の有無で大きく変わります。

「異常時の動作」の列は、多くのテンプレートに入っていませんが、1本足すだけで拾える範囲が広がります。この列が空欄の機能が並んでいる文書は、まだ合意の水準に達していないと判断してください。なお、IPAが公開している「機能要件の合意形成ガイド」(2010年3月公開)は、概要編に加えて画面、システム振舞い、データモデル、帳票、バッチ、外部インターフェースの6分冊から成り、合意の成熟度を段階に分けて示しています。自分たちの一覧がどの段階で止まっているかを測る物差しとして使えます。

5〜6章(データ要件・非機能要件): 非機能はIPAの6大項目を観点リストにする

データ要件は、機能一覧ほど注目されないわりに、抜けたときの影響が大きい章です。主要なデータ項目ごとに「件数の見込み」「発生・更新の頻度」「保存期間」「移行の要否」を並べた表を1枚用意してください。あわせて、旧システムのどの時点のデータを正とするか(移行基準日)と、移行後に旧システムを参照専用で残す期間を決めておく。この2点が決まっていない案件は、切り替え当日の判断が属人化します。

非機能要件は「思いついたものを書く」方式では必ず漏れます。観点リストを先に用意し、各観点について「要件あり」「対象外」を明示的に判断する書き方に変えてください。IPAの「非機能要求グレード2018」は、非機能要求を6つの大項目に分けて整理した資料で、この6項目をそのまま観点リストとして流用できます。

大項目

要件定義書で決める代表例

判定できる書き方の例

可用性

稼働時間帯、稼働率、目標復旧時間(RTO)、目標復旧時点(RPO)

稼働時間帯・月間稼働率・RTO・RPOを、業務が止まっても許容できる範囲から逆算して数値で定める

性能・拡張性

応答時間、同時利用者数、スループット

一覧画面の初回表示を、想定ピーク時の同時利用者数のもとで何秒以内に収めるかを、測り方(95パーセンタイル基準など)とあわせて定める

運用・保守性

監視、バックアップ、メンテナンス枠

日次フルバックアップ、週次リストアテスト、月1回の停止枠(日曜2:00〜4:00)

移行性

移行対象データ、移行方式、並行稼働

過去3年分を移行、移行期間中は1か月の並行稼働

セキュリティ

認証、権限、ログ、脆弱性対応

多要素認証必須、操作ログ1年保管、年1回の脆弱性診断

システム環境・エコロジー

構成(クラウド/オンプレ)、設置環境の制約

国内リージョンのクラウド上に構築、本番・検証・開発の3環境を分離

「要件なし」と判断した観点も、削除せず「対象外」と書き残してください。空欄と対象外は見た目が似ていても意味が正反対です。空欄は検討していない状態、対象外は検討したうえで不要と判断した状態。この区別が書面にあれば、稼働後に問題が起きたときに、判断の誤りなのか検討漏れなのかを切り分けられます。要求値の隣に「なぜその値なのか」の根拠を1行添えておくと、レビューでの押し問答も減ります。

曖昧な一文を直す対比表——6項目のビフォー・アフター

私は2018年からホーチミンで約100社の開発体制づくりに関わってきましたが、海外のチームに渡す文書では、曖昧さの代償がそのまま手戻りとして返ってきます。実際に受けた相談で、「検索結果が速く表示されること」と書かれた要件が実装後に「2秒以内のつもりだった」と判明し、作り直しになった案件がありました。日本国内のチームなら空気で補ってくれたかもしれませんが、補ってもらう前提で書くこと自体が失敗のもとです。

次の対比表は、そのまま自分の文書の点検に使えます。

項目

測れない一文(直す前)

判定できる一文(直した後)

目的

業務を効率化する

紙の申請をWeb化し、経理部門の入力にかかる時間を年度末までに現在の半分にする

対象範囲

経費精算機能全般

国内3社・正社員800名の交通費と出張費の申請から承認、仕訳連携まで。海外子会社と法人カード連携は対象外

機能要件

領収書を読み取れること

撮影した領収書からOCRで金額・日付・取引先名をフォームに自動反映する。金額フィールドの読取精度は95%以上

性能

レスポンスが速いこと

申請一覧画面の初回表示を、想定ピーク時の同時利用者数のもとで何秒以内に収めるかを95パーセンタイル基準で定める

可用性

落ちないこと

月間稼働率の目標値と、計画停止の頻度・曜日・時間帯を数値で定める

権限・運用

上長が承認できること

申請者・一次承認者・経理の3ロールを定義。一次承認は直属上長のみ。代理承認時はログに代理者IDを記録する

直し方の型は共通しています。形容詞を数値に置き換え、条件(誰が、いつ、どの状態で)を添え、測り方(基準)を書く。この3つを足せば、たいていの一文は判定できる形になります。

書き上げたあとが本番——レビューで落ちる3類型、承認前の5つの問い、変更管理のルール

要件定義書をレビューして指摘を入れるプロジェクトチーム

要件定義書は、書き上げた時点では下書きです。合意形成の道具として機能させるには、レビューで不備を潰し、承認で範囲を確定させ、承認後の変更をどう扱うかまで決める必要があります。ここを飛ばすと、せっかく書いた文書が「誰も最新版を特定できない紙」に変わります。

レビューで落ちる3類型(測れない形容詞・対象外なし・例外系なし)の見つけ方

レビューで頻出する問題には型があります。この3つを先に探すと効率が上がります。

類型

症状

見つけ方

直し方

1 測れない形容詞

「柔軟に」「使いやすく」「迅速に」「安全に」が要件として書かれている

形容詞と副詞を全文検索する。「速い」「多い」「簡単」も対象

数値または具体的な動作に置き換える。測り方の基準も添える

2 対象外事項がない

範囲の境界が読み手の解釈に委ねられている

2章に「対象外」の見出しがあるか、中身が空でないかを見る

やらないことを列挙し、「次期検討」と「実施しない」を書き分ける

3 例外系がない

正常系の記述しかなく、入力ミス・連携先の停止・月次処理の失敗に触れていない

機能一覧の「異常時の動作」列が空欄の行を数える

「誰に通知し、どう表示し、再送はどうするか」を1行で書く。詳細は設計に渡す

要件定義書のレビューで落ちる3類型(測れない形容詞・対象外事項がない・例外系がない)と直し方、承認前の5つの問い、中間レビューから最終レビュー・サインオフ・変更管理までの流れ

3類型のうち、レビュー会で最も見落とされるのが3つ目です。正常系だけを読むと文書は整って見えるので、指摘が出にくい。機能一覧に列を1本足しておくのは、このためです。

承認前の5つの問いと、中間レビュー・最終レビューの二段階

承認に出す前に、次の5つの問いに答えてください。すべて「はい」なら、設計工程に引き渡せる水準です。

  1. 目的から読んだとき、各機能が「何のためにあるか」を説明できるか
  2. 対象外事項は明記されているか。空欄と「対象外」が区別されているか
  3. すべての機能に優先度が付いているか
  4. 非機能要件は観点リストに対して網羅的に判断されているか(「対象外」も記録されているか)
  5. 業務側の責任者が読んで理解できる言葉で書かれているか

レビューは一度で終えないでください。章単位の中間レビューと、全体の最終レビューの二段階に分けると、指摘の手戻りが小さくなり、承認会議での差し戻しも起きにくくなります。中間レビューでは章ごとに担当を割り振り、業務部門には業務要件とフローの実態、情報システム部門には非機能要件と技術的な実現性、というように観点を伝えると、フィードバックの質が上がります。

レビュー時にもう1つ有効なのが、画面のレイアウト案(モックアップ)やプロトタイプを添えることです。専門用語が並ぶ文書だけを見せると、業務担当者や経営層は表面的な承認で終わってしまい、稼働直前に「思っていたものと違う」が出てきます。あわせて「この要件はどのテストケースで確認するか」までセットで合意しておくと、検収時のトラブルが大きく減ります。

社内合意の取り方——サインオフと、承認後の変更管理を1章に書いておく

レビューと修正を繰り返し、関係者が内容に納得したら、発注側と開発側の責任者が要件定義書に署名して合意を確定します。このサインオフによって文書はプロジェクトの公式な基準文書になり、以降の仕様変更は正式な手続きに乗ります。

そして、承認と同時に決めておきたいのが変更管理のルールです。誰が変更を起票し、誰が影響(費用・納期・他要件)を判断し、誰が再承認するのか。この3点を1章に書いておくと、稼働までの間に必ず発生する仕様変更を制度として処理できます。ルールがないまま個別のメールやチャットで変更が積み上がると、最終的にどれが合意内容なのか誰にも分からなくなります。承認済みの版は上書きせず、変更内容・理由・影響・承認者を変更履歴に残し、版番号を上げて再承認を得る。この運用があるだけで「いつの間にか仕様が変わっていた」という事故は防げます。

当社が支援している介護記録SaaS「CareViewer」のように、要件が動き続けるプロダクトでも、この考え方は変わりません。日本語のブリッジSEをフロントに置き、週次で優先順位を判断し、決まったことをその都度文書に落とす。文書を固定するのではなく、合意の更新手順を固定するわけです。要件が動く案件ほど、変更管理のルールが効きます。あなたの手元にある要件定義書は、承認後に誰が何をすれば変えられる文書になっているでしょうか。

AIに要件定義書の草案を書かせるときの注意——任せられる作業と、人が引き取る判断

AIが生成した要件定義書の草案を確認する担当者

2026年に入り、要件定義書のたたき台を生成AIで作る相談が急に増えました。結論から言うと、使ってよい場面はあります。ただし任せられるのは「書く作業」までで、「決める判断」は人が引き取る必要があります。ここを混ぜると、もっともらしく整っているのに中身が自社と合っていない文書ができあがります。

任せてよい作業と、任せてはいけない判断の対応表

作業

AIに任せてよいか

理由

章立ての生成、テンプレートの下書き

任せてよい

一般的な型があり、出力の正誤を人が判断できる

議事録・ヒアリングメモの構造化(要求の抽出、分類)

任せてよい

元データが手元にあり、抜けや誤りを照合できる

曖昧な一文の言い換え候補の列挙

任せてよい

候補から人が選ぶ前提なら有効。数値の妥当性は人が決める

用語集のたたき台(文書中の用語の抽出)

任せてよい

抽出は機械的な作業。定義文は業務側が確認する

対象外事項の判断(何をやらないと決めること)

任せない

予算・政治・優先順位の判断であり、文書に書かれていない前提に依存する

優先度付け(必須かあれば良いか)

任せない

事業上の判断。外すと削る順番を間違える

非機能要件の数値の決定

任せない

もっともらしい一般値を埋めてしまう。現行業務の実測と照らす必要がある

部門間の力関係・暗黙の業務ルールの反映

任せない

文書化されていない情報は機械には見えない

線引きの原則はこうです。答えが手元の資料の中にある作業は任せてよい。答えが人の頭の中と組織の事情にある判断は任せない。

使うときの3つのルール——機密情報、出典の確認、書きすぎの削り

1つ目は機密情報の扱いです。社内の業務フロー、取引先名、顧客データのサンプルを入力する前に、利用するサービスの学習利用の設定と社内規程を確認してください。当社でもAIを開発工程に取り入れていますが、顧客の本番データや機密文書の入力可否は案件ごとに契約で取り決めています。曖昧なまま個人の判断で入力するのは要注意です。

2つ目は出典の確認です。生成された文章には、実在しない規格名や、数字だけもっともらしい相場が混ざることがあります。稟議に添付する文書で出典が誤っていると、文書全体の信頼が落ちます。公的資料を引くなら、IPAやデジタル庁の公開ページを自分で開いて確認してください。

3つ目は書きすぎの削りです。生成AIは空欄を嫌うため、聞かれていない章まで丁寧に埋めてきます。前章で述べたとおり、テンプレートは削る前提で使うものです。生成物はあくまで初稿の下書きと考え、自社に関係ない章を削り、対象外事項と優先度を人が書き入れる。この2つを人が引き取れば、AIは要件定義書の作成時間を確実に短くしてくれます。

当社の位置づけ——日本人PMが仕様の文書化を担う体制と、向く案件・向かない案件

TALENTBASE VIETNAMの日本人PMが仕様の文書化を担う打ち合わせの様子

ここまでが要件定義書の書き方です。最後に、社内に書き手がいない場合の選択肢として、当社の立ち位置を短く述べます。売り込みというより、どこまで外に出せてどこからは出せないかの線引きの話として読んでください。

文書化をどこまで巻き取れるか——当社の体制と、発注側に残る判断

当社はベトナム・ホーチミンを拠点に、日本人PMまたはブリッジSEをフロントに置く体制(パターンA)を推奨しています。この体制では、日本人PMが打ち合わせの内容を要件の形に言語化し、機能一覧・非機能要件の観点表・決定事項の記録といった文書化を担います。海外のチームに渡す文書は曖昧さの代償が手戻りで返るため、日本語で詰める役割を日本側に置いているわけです。品質面では、日本人PMによる設計レビュー、Gitのプルリクエストによるコードレビューの標準化、リリース前のダブルチェックの3点を仕組みとして持っています。

体制は1名から組め、開始までは最短2週間、増員は約1週間、縮小や交代は1か月単位です。エンジニアは協力会社を経由せず、2,000名以上の人財データベース(日本語N1〜N2相当を含む)から直接アサインします。公開単価は実務3年目安で1,500USD(1USD=150円換算目安で約22.5万円)、5年で2,000USD、10年目安とブリッジSEで3,000USD。日本人PMフロントに2〜3人月を足した最小構成で月額約80万円からが目安です。契約と支払いは日本国内法人・日本法準拠で、海外送金は不要です。

ただし、文書化を巻き取れても、業務要件の正しさと優先順位の判断は発注側に残ります。自社の例外運用や部門間の事情は外からは見えないためで、ここは代われません。介護記録SaaS「CareViewer」では日本語ブリッジSE1名とフルスタックエンジニア2名の体制で、要件が動き続けるプロダクトを週次の優先順位判断で回しています。金融系マッチングの案件では構想段階から伴走しました。いずれも、決めるのはお客様、書いて残すのは当社、という分担です。

向く案件・向かない案件

向くのは、継続的に開発や改修があり、要件が動きながら固まっていく案件です。要件定義書を1回作って終わりではなく、合意の更新を回し続ける形が必要な案件では、この体制が効きます。時差2時間のホーチミンなので、日本の営業時間内に確認が取れる点も、文書のやり取りが多い工程では利きます。

向かないのは、要件がすでに確定していて単発で作りきる案件です。この場合は成果物に対して対価を払う請負のほうが合理的で、当社でもその旨をお伝えしています。また、社内に業務要件を判断できる担当者をまったく置けない案件も向きません。文書化は代われますが、判断は代われないからです。なお契約類型の考え方は、IPAと経済産業省が公開している「情報システム・モデル取引・契約書 第二版」(2020年12月22日公開)が、企画・要件定義・開発・運用保守の各プロセスごとに整理しており、社内稟議の根拠として引きやすい資料です。

要件定義書の書き方でよくある質問

要件定義書の書き方に関する質問に答える担当者

最後に、要件定義書を書く場面で繰り返し受ける質問を5つまとめます。分量・ツール・仕様書との違い・アジャイル・外注可否の順です。

Q1. 要件定義書はどれくらいの分量が適切ですか?

規模によって数十ページから数百ページまで幅があり、ページ数そのものに正解はありません。判断基準は量ではなく、「設計者が判断に迷わないか」と「業務側の責任者が読み切れるか」の両立です。読み切れない分量になる場合は、本編(業務側が読む説明)と別紙(機能一覧などの表)に分冊する構成にしてください。

Q2. ExcelとWordのどちらで書くべきですか?

本文の説明はWordや文書ツール、機能一覧・画面一覧などの表はExcelやスプレッドシート、という使い分けが実務では多数派です。ツールより重要なのは版管理で、どれが最新版かを一意に特定でき、変更履歴を追える運用を最初に決めてください。一覧をテキスト形式でも持ってバージョン管理ツールに置いておくと、版が上がったときの差分を機械的に出せます。

Q3. 要件定義書と仕様書・設計書は何が違うのですか?

要件定義書は「何を実現するか(What)」を定義し、設計書・仕様書は「どう実現するか(How)」を定義します。画面レイアウトやデータベース構造は設計書の担当です。要件定義書に実装の詳細まで書き込むと、変更のたびに改訂が必要になって文書が形骸化します。

Q4. アジャイル開発でも要件定義書は必要ですか?

必要です。ただし、作る対象を一度で確定させる書き方は取りません。反復のたびに変わるのは機能の詳細であって、システム全体の目的や守るべき性能・セキュリティの水準ではないからです。目的、対象範囲、対象外事項、非機能要件は先に文書化し、機能はユーザーストーリーと受入基準の形で優先順位を付けて段階的に詳細化します。

Q5. 開発会社に要件定義書を書いてもらってよいですか?

問題ありません。受託開発では開発会社が執筆を主導する分担が一般的です。依頼するときは、過去の要件定義書の構成だけでも見せてもらい、対象外事項が書かれているか、非機能要件が観点リストで点検されているか、機能に優先度が付いているかの3点を確認してください。ただし、業務要件の正しさと優先順位の判断が発注側に残ることは変わりません。書いてもらう文書ではなく、共同で作り自社が承認する文書。

まとめ: 型に沿って書き、数値と条件で書き、レビューで潰し、変更管理まで決める

要件定義書の書き方は4段階です。9章の章立て(はじめに/プロジェクト概要/業務要件/機能要件/データ要件/非機能要件/制約条件/体制とスケジュール/用語集)を型として写し、削る前提で自社に合わせる。各章を「テストで合否を判定できる一文」に直す。レビューで3類型(測れない形容詞・対象外事項なし・例外系なし)を潰し、承認前の5つの問いに答える。そして承認と同時に、誰が起票し誰が影響を判断し誰が再承認するかという変更管理のルールを1章に書いておく。この順番で進めれば、初めて書く人でも設計に渡せる水準に届きます。

合格条件は分量ではなく、設計者が判断に迷わないことと、業務側の責任者が読み切れることの両立です。非機能要件はIPAの「非機能要求グレード2018」の6大項目を観点リストにして、「対象外」と判断した観点も記録に残す。機能一覧には優先度と異常時の動作の列を必ず置く。生成AIは章立てと初稿の下書きまでは任せてよいが、対象外事項の判断と優先度付けは人が引き取る。この4点を守るだけで、レビューでの差し戻しはかなり減ります。

社内に書き手がいない場合は、文書化を外に出す選択肢もあります。当社は日本人PMまたはブリッジSEをフロントに置き、要件の言語化と機能一覧・非機能要件の観点表・決定事項の記録までを担う体制を、1名から最短2週間で組めるようにしています。ただし、業務要件の正しさと優先順位の判断は発注側に残ります。ここは代われません。要件定義という工程そのものの進め方は要件定義の進め方、設計以降の文書をどう書くかはオフショア開発の仕様書の書き方もあわせてご覧ください。現在の体制と要件をお聞かせいただければ、どこまで当社が巻き取れるかの線引きと概算見積もりでお答えします。合わない案件にはその旨も率直にお伝えします。

無料相談する 記事一覧へ戻る

まずは無料相談から

現在の体制と要件をお聞かせください。同等品質でどこまで下げられるか、概算見積もりでお答えします。

資料ダウンロード 無料相談する